日本で感染者が少ないのは水洗トイレの普及!?
これまでの感染疫学調査から、SARS-CoV-2感染者のうち他のヒトに感染を広めている感染者は10人中1~2人と推定されています。これら感染者を中心にクラスターが形成された時にのみウイルス感染が広まるという、いわゆるクラスター感染が指摘されています。そこで、4月初めまでに我が国で発生したクラスター感染の中から、市中で偶々発生したと考えられる以下の5つのクラスター感染事例を見直しました。
1)大阪ライブハウス
ライブハウスArcでは感染者22名中19名が女性、Soap opera classics Umedaでは感染者41名中29名が女性、americamura FANJ twiceでは感染者4名はすべて男性。
2)北見市展示会
感染者11名中10名が男性。
3)札幌市ライブバー「シング・シング・シング」
3名の女性が一次感染者で、数日後の来客で感染した3名は男性のみ。
4)仙台市パブ「HUB」
偶然来店し感染した5名中全員が男性。
5)二本松郵便局
職員134名(男女比は不明)の職場では、感染者10名中全員が男性。
上記クラスター感染事例において、感染者の男女比が極端に偏っていることが見て取れます。この男女比の偏りから考えられることは、男女の行動範囲の違いが感染に大きく影響しているということです。その最たる場所はトイレであると考えられます。
SARS-CoV-2感染者に何らかの症状があれば、そもそも出歩く可能性は低く、クラスター感染源になる可能性も低いと考えられます。しかし無症状感染者の中で糞便中にウイルスを多量に排出している感染者(SARS-CoV-2キャリア)が居れば、クラスター感染源になる可能性が高いと言えます。まだ、我が国におけるSARS-CoV-2感染者数は十分には把握されていませんが、中国や欧米諸国に比べると、極めて少ないことは間違いないものと思われます。
トイレにおけるクラスター感染を想定した時に思い浮かぶことは、温水洗浄便座の普及率が日本のように80%を超える国が他にないということです。温水洗浄便座によってSARS-CoV-2で汚染された感染者の糞便が下水道に洗い流されているために、我が国ではSARS-CoV-2によるトイレの汚染が諸外国に比べて抑えられている可能性も考えられます。
以上、これまでのCOVID-19クラスター感染情報を基に、トイレにおけるクラスター発生の可能性を糞便中のウイルスに視点を置いて考察しました。もちろん、これまで多くの方が指摘されているように、3密による飛沫感染においてもトイレが重要な場となっていることも充分に考えられます。再流行の場となる可能性が高いトイレでの感染防止策を今以上に厳密にすることが重要です。
(文=沼田昇、元地方衛生研究所職員、医学博士 PhD)
※医療バナンス学会発行「MRIC」2020年6月1日より転載(http://medg.jp/mt/)