鳥類の体内にはカンピロバクター属が存在する
一方、家畜や鳥類の家禽(ニワトリ、ウズラ、七面鳥など)の腸管・生殖器に感染する微生物は、カンピロバクター属だ。こちらもヒトの下痢症の原因であることが1970年代に確認され、感染性腸炎の原因菌として広く認識されるようになった。
菌自体は乾燥に弱く、室温下では長く生きられない。しかし、温度が低くて湿潤/酸素にさらされない環境下では生存日数が長くなる。カンピロバクターの生存にとって、冷蔵庫内などは好ましい環境とされている。
一例として、平成28年4月~5月にかけて全国5会場で開催されたイベントのうち、東京・福岡の2会場で加熱不十分な鶏肉(いずれも鶏肉の寿司)を原因とする、カンピロバクターの大規模食中毒が発生している。
流行の“ジビエ”も生は危険!
生レバーの提供が禁止されるようになった理由は、これらO157 やカンピロバクターなど、たとえ菌の数が少なかったとしても食中毒を発症する可能性が否めないからだ。いずれも動物の腸内に住んでいる細菌であり、屠殺後の新鮮な肉であっても発症リスクは低くならない。
むしろ新鮮肉のほうが危険とさえいえる。つまり衛生管理の悪い肉を食べたから食中毒が起こるわけではなく、新鮮な生肉を選ぶ「刺身」のような調理法こそが一番危険である点を周知することが必要だ。
生肉と食中毒の関連でいえば、最近流行りのジビエ(=狩猟対象のシカやイノシシなどの肉を食する)料理も加熱不十分な野生肉を供すればE型肝炎ウイルスや腸管出血性大腸菌、または寄生虫による食中毒のリスクは避けられない。
実際、野生シカ肉の刺身を食べてE型肝炎を発症した事例が、2003年8月に報告されている。これは生で食べた4名が6~7週間後にE型肝炎(HEV)を発症。全く食べていないか/ごく少量しか食べなかった患者家族はHEVに感染しなかった点が確認され、特定の食品摂食とE型急性肝炎発症との直接的関係が認められた最初の事例となった。
レア、新鮮……などのイメージは食欲を誘うが、食中毒を防ぐためには、生肉や加熱不十分な肉料理は食べないことが賢明だ。外食に限らず家庭料理でも、挽肉やタレ漬けされた調理肉、肉や脂をつなぎ合わせた結着肉や筋切り肉、牛・豚・鶏レバーなどの内臓類は内部まで十分に加熱することが重要である。
加熱の目安は、肉内部の温度が75度で1分間以上。ハンバーグを例にとれば、肉汁が透明になり、竹串で中の赤身がなくなった状態が確認できれば十分だろう。
(文=編集部)