サマータイム導入で甚大な健康リスク!肥満、心筋梗塞、うつ病、生活習慣病、過労死……

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世界約60カ国が実施しているものの、廃止に踏切る動きも

 サマータイム(Daylight Saving Time)は、文字通り「昼間の光を無駄にしない時刻制度」だ。

 サマータイムは、夏時間開始の時に時計を1~2時間進め、夏時間終了の時に時計を1〜2時間戻す。夏時間開始初日の朝7時は、夏時間開始前日の朝6時になり、逆に夏時間終了日の朝7時は、夏時間終了翌日に朝6時になる。つまり、朝同時刻に起きれば、夏時間開始時は1時間の早起きに、夏時間終了時は1時間の朝寝坊になる。

 サマータイムは、ヨーロッパではほとんどの国、東欧、アメリカの一部、カナダ、イラン、ニュージーランド、オーストラリアなど国連加盟国193カ国のうちの約60カ国が実施しているが、その対応は一様ではない。

 アメリカではアリゾナ州とハワイ州、カナダではサスカチュワン州、メキシコではソノラ州などでは実施していない。また、オーストラリアとブラジルは、州単位で実施するかどうかを決め、半数の州が実施していない。ヨーロッパは、アイスランド、ロシア、ベラルーシを除く40カ国が採用しているが、エジプト、トルコ、アゼルバイジャン、ハイチ、チリ、ウルグアイなどが廃止に踏み切り、導入を見直す動きが根強い。

 たとえば、ロシアは、救急車の出動や心筋梗塞による死亡者が増加し、生体リズムに反している、省エネ効果がほとんどないことから、2011年3月に廃止された。
 
 ドイツは、5万5000人を対象にした大規模調査を行なったところ、4週間経ってもサマータイムに身体が慣れず、通常時間に慣らすにも3週間を要した事実が判明、検討を迫られている。

 フランスは、1996年の欧州連合(EU)上院代議員団レポートで「年2回の時刻変更に伴う省エネ等の利益は、国民が感じている不利益には大きくおよばない。この人工的な制度を廃止し、より自然な時間の流れに戻すべき」と結論している。

睡眠障害が引き起こす甚大な健康リスク!

 一般社団法人日本睡眠学会「サマータイム制度に関する特別委員会」(本間研一委員長/北海道大学)は、「サマータイム制度と睡眠」(2008年7月)をまとめ、サマータイムがもたらす甚大な健康リスクを警告している(参照:「サマータイムを考える―健康に与える影響―」)。

 報告によれば、日本人は欧米人よりも睡眠時間が短く、夜ふかし習慣が定着しているため、サマータイムによる健康リスクが大きい、電気機器などの改良によって省エネ効果はほとんど期待できない、一般家庭では増エネになる可能性があるなど、サマータイムは利益よりも不利益が多いと結論づけている。

 サマータイムの最大の問題点は何か? 本間教授によると、慣れるまでに時間がかかる、夜型人間にはつらい、睡眠時間が減る。その結果、生体リズムが乱れ、眠りの質と量に悪影響を及ぼすことから、睡眠障害などの甚大な健康障害を招く点だ。

 なぜ慣れるまでに時間がかるのか? ヒトの脳に視交叉上核という体内時計があり、時間情報が全身の細胞に伝えられ、約24時間の周期を刻んでいる。その結果、起床後から午後に高まった体温が夕方に下がり、夜に眠くなる。この体内時計の1日の長さは、平均24.5時間と24時間よりもやや長いため、サマータイムを標準時間に戻し、1日を長くする秋の変化には体内時計を合わせやすいが、標準時間からサマータイムへ移す春の変化は負担が大きくなる。つまり、体内時計が記憶している起床就寝時刻と、サマータイムの起床就寝時刻が乖離するので、慣れるのに時間がかかるため、夜型人間にはつらく、睡眠時間が減ることにつながる。

 これらの帰結から、生体リズムが乱れ、眠りの質と量に悪影響を及ぼすため、甚大な健康障害リスクを招くのは明らかだ。言い換えれば、サマータイムの影響は、夜型や睡眠時間が短い人ほど受けやすい。夜型・短時間睡眠国家である日本のサマータイム導入は、危険がいっぱいだ。

サマータイムで心筋梗塞、うつ病、睡眠障害、自殺……

 どのような健康障害リスクを起こすのだろう?

 先述のロシアのように、夏時間への移行時に救急車の出動回数が増え、心筋梗塞が増加、スウェーデンは、2008年に「夏時間が始まる春に心筋梗塞が増え、夏時間が終わる秋に減る」とする研究を発表。

 フランスは、1996年のEU上院代議員団レポートで「時刻変更時期に生じる生活リズムの急激な変化がもたらす生理的負担が小児、高齢者、うつ病などの精神疾患患者などの健康弱者に生じる」と指摘。

 2009年に10代の学生を対象に調査を行なったドイツは、「夏時間への移行後3週間にわたって、特に夜型の学生は日中の眠気が強いため、夏時間移行直後の試験を控える」ように勧告。

 また、眠りに問題を抱える児童の親に対するアンケート調査では、約60%以上の親が夏時間への移行時に子供の眠りに中等度以上の何らかの問題や不登校の懸念が生じると指摘。不登校児童の約40%に睡眠障害があると報告。

 さらに、オーストラリアの男性が対象の調査では、夏時間への移行時に自殺が増える傾向があると指摘。

 イギリスは、春の時刻変更前後1週間に発生した傷害を伴う交通事故件数を調査したところ、導入後は交通事故が10.8%増加している事実が判明。米国・カリフォルニア州やドイツでも同様の結果を報告。

 さらに、「2005年北海道サマータイム月間/アンケート調査」によれば、従業員の40%以上が「体調が悪くなった」「不都合が生じた」と回答している。

「スリープヘルス」のすすめ

 いかがだろう。サマータイムを実施しても人間の睡眠時間は夏に短く、冬に長くなる。それが人間の生理だ。睡眠時間が短い夏にサマータイムを導入すれば、さらに睡眠時間が減るのは火を見るより明らかだろう。

 前出の本間教授は、打開策に「スリープヘルス」をすすめている。

 人間は、寝て食べて出して初めて脳と身体の活動が高まる昼行性の動物だ。睡眠軽視になるサマータイムよりも大切なことは、睡眠を重視しつつ、自らに適したライフスタイルを確立するスリープヘルスが重要だ。

 スリープヘルスの基本は、朝の光を浴びる、昼間に活動する、眠くなる午後2時前後に15分間昼寝する、夜は暗い場所で休む、規則的な食事をとる、寝る前に眠気を阻害する嗜好品(カフェイン、アルコール、ニコチン)や過剰なメディア接触を避けることだ。

 繰り返すが、睡眠障害を引き起こすサマータイムは、肥満、ストレス、心筋梗塞、うつ病、生活習慣病、過労死などの甚大な健康リスクだけでなく、判断力の低下による作業効率の低下、事故の多発、子供の不登校も招く。

 眠りたい人間の自然な生理作用やホメオスタシス(生体恒常性)に、真っ向から反するサマータイム。睡眠軽視は、百害あって一利なし。国民の健康無視の時代錯誤は、迷惑千万、人権侵害に通じる。一顧だにする価値すらないと言わざるを得ない。政府・与党は、即刻、矛を収めなければならない。
(文=編集部)

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