シリーズ「本能で楽しむ医療ドラマ主義宣言!」 第14回

『ブラックペアン』二宮和也が手術手技を熟知していると感じさせる細かい演出はこれ!

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日本では国民皆保険制度のため治験が進まない

 インパクトファクターというものを気に掛ける教授たちの会話がありましたね。これは論文が載る雑誌の質が高いほどインパクトファクターが高く、名声が上がるということです。佐伯教授はインパクトファクターが医者の価値・未来・人生すべてを変える、と語っていましたね。

 教授になるためには論文実績やインパクトファクターの点数が評価されます。一般臨床医には全く関係のない話ですが、大学病院で上を目指すにはこのインパクトファクターが必要ということです。そして面白いことに、ひとたび海外留学をして海外の有名医学雑誌に論文が載ったりすると、その医師は一気にインパクトファクターが上がったりするのです。だから、大学にいる教授が必ずしも臨床が上手とは限らない、という事態が起こり得るのです。ミシュランの☆の数、と例えていたのはわかりやすかったです。

 ちょっと余談ですが、よく医師の会話の中では、「エビデンス(科学的根拠)がある」という言葉が使われます。世の中的にもエビデンスベースの治療(EBM)が推奨されています。医者同志でもEBMの有無を議論することがよくありますが、整形外科医同士の会話では、「この治療はエビデンス出たんだよ」「へ~、そうなんだ!」で済むことが、内科医が入ると「そのエビデンスのインパクトファクターは?」などとインパクトファクターまで絡ませてくるあたり、ちょっと面倒くさい会話になってしまったりするのです(笑)。

 そしてスナイプは治験でしたね。医療で使う機械や薬は必ず治験をします。湿布であろうと水虫の薬であろうと、治験で安全性と効果が認められないと国の承認が下りず、実際の臨床には出回りません。

 私が大学に勤めているときに、グルコサミンの治験をしていました。結局、臨床薬としては優位な効果でなかったため承認されず、サプリ扱いになっています。

 治験を行う病院は「医療機器の臨床試験の実施の基準に関する省令」に定められた条件を満たす病院のみです。日々、あちこちの認定病院で治験は行われていて、治験を行う病院には謝礼が支払われるのも事実です。治験専門病院もあります。治験薬に合わせて、薬の使い方、患者さんの受診日や採血日などのプロトコール(臨床研究実施計画書)が決められています。そして治験には治験コーディネーターがいて、治験のあらゆる手筈を整えたり、文献を用意してくれたりしてくれるのです。

 しかしながら日本では、国民皆保険が整備され治療費が安いため、治験がなかなか進みにくいのです。一方、アメリカでは入る医療保険によって大きな格差があります。保険未加入、あるいは費用の低い保険への加入者では、たとえ盲腸の手術でさえ非常に高額な治療費が請求されます。ところが治験で治療を行えば無料、あるいは謝礼が出るので、治験を受けたがる人が多いため、新薬や機械の治験が進みやすいのです。
 
 スナイプ手技の失敗=人工弁がいい場所に入らず左心室に落ちてしまいました。回収デバイスはなぜオペ室に初めから準備されていなかったのかなあ~?なんて思いながらモニターを見ていました。実際に人工弁が左室に落ちたら、人工弁は洗濯機の中のように動き回ることでしょう。現実的には回収デバイスなんて不可能ではないかな? え~、鉗子で掴んじゃうの? なんて話しながら見ていたら、左室に穴をあけてしまいました(笑)。医療ドラマには大出血とパニックは必須なのでしょう。

 ちなみに、大動脈弁の人工弁留置はカテーテル手技で行い、心尖部からの刺入はリスクが高いから行わないようです。

 まっ、でも僧帽弁のオンビートオペはあんなに急務だったのに、心尖部の縫合は余裕だったのはなぜでしょう?そして世良の縫合はゆるゆるでした~(笑)!でも、医師は自分がやらなければこの人の命が危ない!という状況の時ほど成長するのも事実。世良も最後はいい顔をしていました!

 そして、ニノが皆からオペを理由にお金を巻き上げるのには、何か理由があるような気がしてきました。病院に対する恨みなのか?私としたことが先読みが難しい……。

 第3回は私の大好きな先輩がちょこっと出演するとの噂。楽しみすぎます。
(文=井上留美子)

『ブラックペアン』二宮和也が手術手技を熟知していると感じさせる細かい演出はこれ!の画像2

井上留美子(いのうえ・るみこ)
松浦整形外科院長
東京生まれの東京育ち。医科大学卒業・研修後、整形外科学教室入局。長男出産をきっかけに父のクリニックの院長となる。自他共に認める医療ドラマフリーク。日本整形外科学会整形外科認定医、リハビリ認定医、リウマチ認定医、スポーツ認定医。
自分の健康法は笑うこと。現在、予防医学としてのヨガに着目し、ヨガインストラクターに整形外科理論などを教えている。シニアヨガプログラムも作成し、自身のクリニックと都内整形外科クリニックでヨガ教室を開いてい。現在は二人の子育てをしながら時間を見つけては医療ドラマウォッチャーに変身し、joynet(ジョイネット)などでも多彩なコラムを執筆する。

シリーズ「本能で楽しむ医療ドラマ主義宣言!」 バックナンバー

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