微小電流の増幅で呼吸停止は可能か?
そして感電死。死体所見としては、電流斑と呼ばれる火傷のような変化が電流の流入部と流出部の皮膚に見られます。電流斑は周囲が赤くなる斑状の深い火傷の形に似ていますが、今回のミコトがこだわった耳と手首の発赤(ほっせき)は低温火傷とのことでしたのでちょっと違うのかなあ。
感電死の直接死因は、身体を通電した電流による心臓細動(心臓がきちんと拍動しなくなる不整脈)が多いのですが、今回は頸椎第4番レベル(C4)の神経麻痺による呼吸停止という話でした。
頸椎はいわゆる首の骨で、7個あります。その下に胸椎が12個、腰椎が5個で背骨は24個あり、大切な脊髄を守る骨のトンネルを作っています。その脊髄から手や足に伸びていく神経が、一つの背中の骨(椎体)の左右上下から一本ずつ分岐して出てくるのですが、その神経支配は身体に地図が書けるほど明確に決まっているのです。
われわれ整形外科医は、脊椎のヘルニアなどでしびれや痛みがある患者さんを診たとき、その場所でどこのレベルの神経症状か、という予想を立てているのです。
その頸椎4番目の神経と言ったら、首以下の身体の動きを支配していて、横隔膜の動きもつかさどっているので今回は呼吸停止、という話になったのでしょう。
「手首から発生した微小電流が耳の端末とイヤーカフとの共振で増幅されて頸椎にショックを与えた」と中堂が語っていました。むむむ、これを語る中堂はかっこよかったけど、これって医学的に可能なのかあ~?
ここら辺の電気系統の話は私には理解不能ですが、頸椎のC4レベルにショックを与えたら、脊髄損傷と同じなので、C1〜3の神経はやられませんが、4より下の神経は全て損傷されてしまいますので、呼吸は勿論、立っていることも、手を動かすこともできないはず。
通電させられた時に被害者の手足が動いていたところを見ると、左右にあるC4から出ている細い神経のみをマヒさせるということかしら?この理論で可能なのであろうか。
仮に可能だとしても、呼吸筋は横隔膜以外にも存在しますので、死に至るにはもう少し時間がかかりそうな気もしてしまうのですが……。医学ドラマに敬意を払いそれなりに真剣に見入ってしまう私としては、若干、違和感の残り理解に苦しんでしまいました。
男性社会の中ではたらくリケジョ恋はどこへいく?
今回のアンナチュラルはそんなことを気にせず、気軽に人間関係の微妙な変化を楽しむ中間地点だったのでしょう。中堂の恋人の事件も、ミコトの活躍でこれからどんどん解明されて行きそうですね。
むしろリケジョの恋の難しさももうひとつのテーマでしたね。
人工呼吸法の場面でのmouth to mouthもそうしたイメージの象徴かもしれません、東海林のためらいが印象的でした。多少なりとも感染の危険も伴うこともあり、ガイドラインでは省略しても良い、となっています。人が意識消失し転倒した時に、もし口の中に出血したりしていて、それを知らずにmouth to mouthを行ったら、感染は避けられませんから。
とは言っても、今回は「異性間交流会」がきっかけで事件に発展した、ということもあり、どうしても人工呼吸=mouth to mouthをさせたかったのかな~、と考えると、ここは突っ込んではいけないところでしょうか(笑)。
15歳の息子が一緒にテレビを見ていたにも関わらず、「人工呼吸は吸うんじゃなくて吐くの!」というミコトと東海林の会話には思わず吹き出してしまいました!
男性との出会いにがつがつしている東海林と、どこか生きた人間に対して期待をもたないミコト。リケジョ二人の会話には親近感がわいてしまいました。そういえば、第一回で婚約破棄になったミコトは、ジタバタせずに、彼の別れ話をすんなり受け入れていた感じがありました。
「去る者、追うべからず……。」
私の周りのjoy(女医)たちもそんな人が多いような気がしなくもない。いまだ男性社会の中で働いているjoyは、彼氏はいた方がいいけれど、追いかけてまでゲットしようとしている人は少ないような……。プライドなのか、時間がないのか、面倒くさいのか。あるいは常に死と隣り合わせの仕事をしているからどこかドライなのか。今回はしょっぱなからそんな思いが私の頭をグルグルしてしまいました。
心が弱ったときに思わぬ相手がカッコよく見えてしまう彼氏不在のリケジョ、そしてドツボにはまっていく久部。マスコミの怖さ・情報の怖さを知った世間知らずの医学生の恋の行方は?
ここからアンナチュラルは後半戦。法医解剖を読み解くよりも人間関係の方が煮詰まっていきそうな予感がします。
井上留美子(いのうえ・るみこ)
松浦整形外科院長
東京生まれの東京育ち。医科大学卒業・研修後、整形外科学教室入局。長男出産をきっかけに父のクリニックの院長となる。自他共に認める医療ドラマフリーク。日本整形外科学会整形外科認定医、リハビリ認定医、リウマチ認定医、スポーツ認定医。
自分の健康法は笑うこと。現在、予防医学としてのヨガに着目し、ヨガインストラクターに整形外科理論などを教えている。シニアヨガプログラムも作成し、自身のクリニックと都内整形外科クリニックでヨガ教室を開いてい。現在は二人の子育てをしながら時間を見つけては医療ドラマウォッチャーに変身し、joynet(ジョイネット)などでも多彩なコラムを執筆する。