オバマケアで米国では91年以降、がん死亡率が低下傾向に(depositphotos.com)
先日、米国がん協会(ACS)が発表した報告書『がん統計2018年版(Cancer Statistics 2018)』によると、米国内の2015年がん死亡率は前年比で1.7%低下――1991年以降、毎年続いてきた低下傾向を更新する朗報が判明した。
また、この10年間で米国人男性のがん死亡率は年間2%の低下が認められるものの、女性は横ばいで推移。報告書の著者のひとりであるACS関係者は「男性のほうが喫煙率の低下が先行していたのが原因なのではないか」と興味深い分析要因を寄せている。
では、この米国のがん死亡率の低下現象に関して、オバマ政権下で鳴り物入りで施行された「医療保険制度改革法(ACA)」は、いかに奏功し、具体的な成果に結びついたのか――。
そんな研究をインディアナ大学経営学部のAparna Soni氏らが実施し、耳目をひいている。その報告は、『American Journal of Public Health』(2017年12月21日オンライン版)に掲載された。
先に結論を記せば、通称「オバマケア」と呼ばれる同改革法の施行に伴い、「早期に発見されるがんの症例が増えて、結果、多数の命が救われた可能性」が、Soni氏らの研究で示唆された。
オバマケアの効果が明白に
少し詳しく振り返ってみよう。手頃な価格設定での加入資格(者)の拡大を計ったメディケイド(低所得者向け公的医療保険)はオバマケアの柱の一つだったが、その施策を実施するかの判断は、各州政府に委ねられていた。
Soni氏ら研究陣は、2014年までにメディケイド拡大を受け入れて実施した州と、逆に拒否した州の比較を試みた。具体的には、メディケイド拡大が生産年齢人口(19~64歳)のがん診断率にどのような影響をもたらしたのかについて検討を重ねた。
対照的な州別の比較研究に際しては、2010~2014年のがん登録データを用いて、13州611群の生産年齢人口の推移を分析。群レベルでのがん診断率を推定し、メディケイド拡大の実施州(13州のうち9州)と拒否州との間での「変化率」を比較した。
その結果、全体的ながん診断率が「3.4%上昇」というメディケイド拡大の効果を匂わせる数値が確認された。これを人口10万人当たりのがん診断数に換算すれば「13.8件の増加」に相当するという。
また、早期がんだけに限定した場合、診断件数の増加はより顕著に読み取れた。早期がんに限れば、メディケイド拡大の奏功で診断率は「6.4%上昇」し、前掲同様の換算では「15.4件の増加」が確認された。
こうした早期診断の増加傾向を押し上げたのは、35~54歳の患者層であり、種別では検出が最も容易ながん(乳がんや結腸がんなど)の診断数が大きな要因になったことも判明した。