再び科学的な検証が!スーパームーンでバイク事故死が1.3倍に
しかし、最近の新しい研究の中には、注目したいものもある。
たとえば、アメリカの刑事司法誌『American Journal of Criminal Justice』に2017年3月に掲載された論文だ。研究者たちは、米国の13州で午後10時〜午前2時の間に「屋外」で発生した犯罪に月明かりが及ぼす影響を調べた。その結果、月明かりが強い夜は屋外での犯罪が著しく増加することがわかった。
これまでの研究は、屋内と屋外の犯罪を一緒に統計していたため、余計な変数が生じていた。しかし今回の研究によって、「月の照度が強くなることは、全犯罪と屋内犯罪にほとんど影響しない一方で、屋外の犯罪活動を有意に増加させる」ことが明らかになったという。
一方、『British Medical Journal(BMJ)』(2017年12月11日号)に掲載された報告によれば、オートバイ事故に限定すると、満月が死亡事故のリスクを増大させることがわかった。
これは満月がオートバイ事故死の一因となるかを調べる目的で、カナダの研究グループが1975~2014年の40年間に米国で発生した夜間(午後4時~午前8時)のオートバイ死亡事故約1万3000件について解析したものだ。
死亡事故の背景としては、正面衝突、ヘルメット未着用、排気量の大きなストリートバイク、発生場所が地方であること、ライダーに中年男性(平均年齢32歳)が多いことといった特徴があった。
死亡事故の発生は、「満月の夜で1夜当たり9.10件」「満月ではない夜で1夜当たり8.64件」。満月でのリスクは1.05倍となるが、その差は偶然ではなく統計学的に有意なものだ。さらにスーパームーンでは、リスクは1.32倍とより高くなった。
研究グループは「人は自然と満月に気が引かれるもので、それがオートバイの衝突事故を招いているのではないか」と仮説を立てている。「このリスクを知ることで、満月の夜のオートバイ運転には注意するよう喚起し、一瞬の気の緩みの危険性を認識するのに役立つだろう」と著者は述べる。
満月までの3日間でウシの出産数が増加する
ヒトではなくウシが対象ではあるが、東京大学大学院農学生命科学研究科は、2016年に「出産と満月」の関係が科学統計的に示されている。
これまで産科医やウシ農家は「満月の頃に出産数が増える」という実感を持っていたが、科学的に示された報告はなく、むしろヒトでは否定的な報告が多かった。しかし、ヒトは栄養状態や社会環境などによる差が大きいため、研究で有効な結論を得ることはとても難しい。
そこで研究グループは、ヒトより均一なデータの得られやすいウシをモデル動物として研究を行った。その結果、「満月の前から満月にかけての3日間でウシの出産数が増加する」ことが初めて明らかにされたのだ。
研究グループは、月光によるホルモンの一種「メラトニン」の分泌変化が関与していると仮説を立てて、さらなる研究を計画している。この成果は、出産メカニズムの深い理解や、産科医、農家、妊婦らが出産前後の計画を立てるのに有益な情報となることが期待されているという。
これらの新しい研究では、80年代のような月の「引力」ではなく、いずれも「光」の影響にフォーカスしている点が興味深い。
今後の月に関する研究では、特定の事象や対象との相関を調べ、複雑に影響する因子を取り除くことで、何らかの因果関係がわかってくるだろう。長い歴史の中で「月の魔力」と呼ばれていたものの存在が否定されることなく、科学的に照明される日も近いかもしれない。
(文=編集部)