牛乳アレルギー治療で呼吸困難、心肺停止! あえてアレルゲンをとる免疫療法の怖さ

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治療で重篤な症状に陥ったケースは9例

 日本小児アレルギー学会によると「低酸素脳症を伴うような重篤な事例」は今回が初めてだという。同学会は急遽、経口負荷試験や経口免疫療法を行う国内約300施設を対象に、重い症状が出た患者がいないかを調査した。

 その結果、287施設中16施設(全体の5.6%)から回答があり、患者がICUでの管理を要するほどの重い症状を引き起こしたケースがこれまでに18例あったことが判明。

 うち8例は患者が誤って原因食物を食べてしまった「誤食」によるものだったが、9例は食物経口負荷試験や経口免疫療法に伴って起きていた。

 抗原別の内訳は、牛乳が8例(44.4%)と最多で、鶏卵、小麦が続いた。また重篤なアレルギー症状を起こした18例のうち、3例が「後遺症あり」と診断された。うち1例は神奈川県立こども医療センターの事例。残りは、鶏卵とエビ・海苔のいずれかの誤食と報告されていた。

 調査結果を報告した海老澤元宏氏(国立病院機構相模原病院臨床研究センター副臨床研究センター長)は「半数に上る症例が医療行為の中で発生していたことを、我々は重く受け止めなければならない」と指摘している。

経口免疫療法は「臨床研究」だと徹底すべき

 じつは経口免疫療法は「まだ臨床研究段階」であり、治療中における症状誘発のリスクも高いことから、一般診療とはされていない。また、食物アレルギーは年齢とともに改善されていく患者が多いので、特に症状の重い患者に治療も限定されて行われている。

 それでも日本では100を超える施設で、計8000件近く実施されている。前出の海老澤氏によれば「これは世界的に見ても非常に多い件数」だという。

 日本小児アレルギー学会が昨年発行した診療ガイドラインでは「食物アレルギー診療を熟知した専門医が、症状出現時の救急対応に万全を期した上で、臨床研究として慎重に施行すべき」ことなどを勧告している。

 しかし、2015年に実施した海老澤氏らの調査によれば、経口免疫療法例は「入院下で約11%、外来で62.5%」が、臨床研究に必要とされる「倫理委員会」の承認手続きを経ることなく行われていた。

 さらに入院下での経口免疫療法の即時型(食べてから約2時間以内に発生)症状の発生頻度は58〜71%、アナフィラキシーショックに対するアドレナリンの使用頻度は6〜9%。

 入院に比べると軽度の食物アレルギー患者に多く実施されている外来の経口免疫療法でも、即時型症状は11%、アドレナリン使用頻度は1%であり、「重篤な症状の発生頻度が少なくない」実態も明らかになっている。

 一定のリスクを伴う研究段階の治療であるにもかかわらず、臨床研究の正しい手続きを踏まずに、日常臨床の延長として経口免疫療法が行われてしまうことは問題がある。治療ガイドラインの記述内容を遵守し、安全性の確認を徹底していくことが必要だろう。

 また、患者とその保護者側にも「リスクを伴う治療」だという認識を持って臨むことが大切だ。

 2012年12月には東京都調布市で、給食のチーズ入りチヂミを食べた小学5年生の女児が死亡するという事故が起きた――。食物アレルギーへの積極的な耐性誘導を安全に行うことができれば、こうした悲しい事例を減らすことにも繋がる。

 食物経口負荷試験や経口免疫療法をより安全に実施するため、さらに詳細な調査を行って問題点を洗い出して欲しい。
(文=編集部)

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