少しの運動がうつの発症を抑える(depositphotos.com)
毎日の適度な運動は、心身に良い。経験的には誰もが知っている感覚だが、その事実を再認識させる知見がある。
ニューサウスウェールズ大学(オーストラリア)精神医学部准教授のSamuel Harvey氏をはじめとするオーストラリア、ノルウェー、英国の共同研究グループは、強度にかかわらず週1時間だけでも何らかの運動をすると、将来うつ病を発症するリスクが低下する可能性があるとする研究成果を『American Journal of Psychiatry』10月3日オンライン版に発表した。
共同研究グループは、1984~1997年に精神障害や身体疾患のないノルウエーの健康な成人3万3,908人を対象に実施された「HUNTコホート研究」のデータを分析した。
その結果、約11年間の追跡期間中に7%がうつ病を発症し、9%が不安障害を発症していたが、研究開始時に強度にかかわらず余暇に運動を定期的にしている人は、うつ病を発症するリスクが低下していた。
交絡因子(こうらくいんし)を調整して解析した結果、対象者の全員が週1時間以上運動していれば、その後発症したうつ病の12%を予防できたと推定された。
ちなみに交絡因子とは調べようとする因子以外の因子で、病気の発生に影響を与えるもので、この場合、週1時間の運動以外で病気の発症に影響を与える要素になる。
また、研究開始時に全く運動をしていなかった人は、週に1~2時間運動していた人と比べてうつ病を発症するリスクが44%高かった。一方、運動と不安障害リスクとの関連は認められなかった
ただ、今回の研究では運動時間が2時間を超えると、うつ病リスクの抑制効果は頭打ちとなることから、運動時間が長ければよりリスクが低下するわけではないことも分かった。
Harvey氏は「身体的な健康には運動時間が長いほどより多くのメリットが期待できるが、精神的な健康には同様のメリットはない。だが、ウォーキングなどの軽い運動をはじめ、どのような種類の運動も、メンタルヘルスにメリットがある」と強調している。
米モンテフィオーレ医療センターのSimon Rego氏は「運動によるうつ病リスクの低減効果は、おそらく複数の機序を介したものと考えられるが、激しい運動でなくても、たった1時間の運動で効果があるのは、運動していない人にとってはハードルが低い」と話している。