再生医療による難病治療の可能性
パーキンソン病は、脳幹に属する中脳の黒質と大脳の線条体に異常を来して発症する。黒質に異常が起きると、正常な神経細胞が減少するため、神経伝達物質のドーパミンの量が低下し、黒質から線条体への情報伝達経路が阻害される。
その結果、姿勢の維持や運動の速度調節がコントロールできにくくなるので、震え、こわばり、動作や姿勢の障害につながる。便秘、排尿障害、立ちくらみ、発汗異常などの自律神経症状やうつ症状を伴う場合も少なくない。
日本では難病(特定疾患)に指定され、患者は約15万人と推定される。40歳以上の中高年の発症が多く、特に65歳以上の発症率が高い。
パーキンソン病は、完全に解明されてはいない。
ところが、2016年2月、一条の光明が差し込んできた。順天堂大学医学部脳神経内科、ゲノム・再生医療センターと慶應義塾大学医学部生理学教室の研究グループは、パーキンソン病患者3000人の血液細胞からiPS細胞(人工多能性幹細胞)を効率よく作製・保存できる技術の開発に成功。
4月以降に世界初のiPS細胞バンクを本格的に立ち上げることになった。
難病と再生医療の研究がコラボするiPS細胞バンク――。このプロジェクトが実現すれば、根本的な治療法がないパーキンソン病の病態の解明や治療薬の開発に結びつく可能性もある。
※『パーキンソン病の発見者は誰? 19世紀初頭に活躍した孤高の外科医によって研究がスタート』
発症機序の解明と新たな治療法の可能性。決して早くはないが、幾重にも巻かれた難病の強固な鎖がほどかれつつある。
(文=編集部)