電力システムが崩壊した世界とは?
このような電力システムが崩壊する事態に陥り、国全体が長期間にわたって電力をまったく使えなくなれば、どうなるだろう? 今年2月に公開された日本映画『サバイバルファミリー』(矢口史靖監督)がある。「電気の止まった生活」の恐ろしさ、現代人の電力依存の愚かさを警告していた――。
ある日、日本列島がブラックアウト(停電)する。目覚まし時計もネットもスマホもパソコンも、テレビも冷蔵庫もエアコンもガスも上下水道も使えない。エレベーターも信号機も自動車も電車も航空機も原発も止まる。ATMは動かず、預金データも消える。スーパーもコンビ二も閉まる。ライフラインは全てフリーズ。食料も水もやがて尽き果てる……。
決して空想でも絵空事でもない。2004年の米議会報告書「電磁パルス攻撃の合衆国への脅威評価」によると、全米規模の電力システム崩壊があれば、復旧に数年を要し、食料、燃料、医薬品などのあらゆる物資の欠乏と衛生確保が困難になることから、飢餓、犯罪、疫病が蔓延し、社会秩序も混迷し、人口3億人余りの米国なら、攻撃の1年後におよそ90%が死に至るとする身の毛もよだつ戦慄の予測している。
電磁パルスは太陽嵐でも発生!生き残るためのリスクマネジメントを急げ
核・ミサイル開発を続ける北朝鮮は、米国に到達する大陸間弾道弾(ICBM)を視野に入れつつ、ミサイルを地上40~400kmに打ち上げ、核弾頭を小型化してミサイルに搭載する技術も備えたと見られている。したがって、核保有国の中国・ロシア・米国などと同様に、北朝鮮も小型核一発で致命的打撃を与える電磁パルス攻撃を効果的な戦略と認識しているに違いない。
読売新聞によれば、テロ組織が核弾頭を上空に打ち上げる場合は、貨物船舶で標的とする国の沿岸に接近し、観測用気球で核弾頭を上空40km付近まで運び、船内の遠隔装置で起爆する。
米議会は、電磁パルス攻撃を想定した「重要インフラ防護に関する法案」を成立させていないが、トランプ大統領は「サイバーその他の手段による攻撃から死活的に重要な社会インフラを守る」と語っているので、法案の成立を急ぐ可能性は高い。
一般社団法人日本戦略研究フォーラムは、「電磁パルス攻撃は大震災をはるかに超える広範囲の社会インフラの破壊をもたらす新たな緊急事態」として警告。核兵器の全廃と拡散防止をめざす外交的取り組み、各国間のテロ組織などの情報共有、攻撃が起きた際の相互態勢、国内インフラの防護体制の構築を提言する。
また、電磁パルスは核爆発だけでなく、太陽表面の巨大爆発で起きる磁気嵐(太陽嵐)が地球を直撃した時にも発生するため、日本戦略研究フォーラムは核による電磁パルス攻撃への備えは太陽嵐直撃への備えにもなると強調する。
研究グループ代表の鬼塚隆志氏(元陸上自衛隊化学学校長)によれば、電磁パルス攻撃からの防護を国土全体の社会インフラに対して施すのは困難だが、一部の地域で発電、送電施設を電磁パルスの影響が及ばない地下に埋設したり、電子機器に十分な防護を施すなどの対策を提唱し、拠点的な都市だけでも電力が生きていれば、全土の復旧が早まると語る(同前)。
「電気の失われた世界」――。荒唐無稽な空想ではなく、いつでもどこでも起こりうる事態というリスクマネジメントの認識が必要だ。テロリストや「ならず者国家」の横暴は断じて許せないが、今こそ核弾頭やミサイルを使う電磁パルス攻撃という脅威に対して、核の洗礼を受けた日本こそが、国際社会をリードして外交的努力に心血を注ぐべき時だ。
(文=編集部)