「知能は遺伝する」を究明する行動遺伝学とは?(shutterstock.com)
「申(さる)」から「酉(とり)」へ干支が引き継がれ、運気が横溢・熟成する年に入った。しかし、人類が直面し、克服するために対峙してきた、飢餓、戦争、病疫が終焉する道はまだ見えない。
今年もIT、AI(人工知能)、ビッグデータのコラボの潮流はますます加速するだろうが、どのような未来が待ち受けるのだろうか?
不確実かつ予測不可能な未来ながら、希望の光も瞬いている。「行動遺伝学(behavioral genetics)」だ。耳慣れない方もいると思うが、知能や性格などがどのように遺伝していくのか、行動が精神疾患とどのように関わるのかを探求する遺伝学の研究分野だ。
知能は遺伝する!この普遍の真実をひたすら究明している行動遺伝学とは?
行動遺伝学の第一人者で慶應義塾大学文学部の安藤寿康教授(ふたご行動発達研究センター長)は、『日本人の9割が知らない遺伝の真実』(SB新書)の中で、個人や社会が遺伝にどのように向き合うべきかを解明している。
「知能は遺伝する!」――この普遍的な真実をひたすら究明している行動遺伝学、その核となる手法は双生児法と呼ばれる。
双生児法は、天然のクローン人間である一卵性双生児と二卵性双生児の類似性を比較し、遺伝と環境の影響率を検出する行動遺伝学独自の研究メソッドだ。双生児法を用いた行動遺伝学の研究は、いまや世界各国で膨大なエビデンスの蓄積がある。
安藤教授らの研究プロジェクトは、18年間にわたって総数1万組の双生児を対象に、知能・学力・性格、精神疾患・発達障害などを精細に調査し続けてきた。その結果を見てみよう。
性格の30~50%、知能の70%、学力の50~60%は遺伝で決まる!
まず、神経質、外向性、開拓性、同調性、勤勉性などの性格の30~50%、知能の70%、学力の50~60%、音楽、執筆、数学、スポーツの能力の80%は、遺伝が決めている。
また、子どもの頃は、知能、アルコールやタバコの物質依存などの形質を除けば、共有環境(家庭や両親による環境)が、性格や能力、行動や心理に影響を与えることはほとんどない。
ただし、20歳〜60歳の男子1000組以上の双生児データによれば、収入に及ぼす遺伝の影響は約30%だった。20歳の頃は遺伝(20%)よりも共有環境(70%)が収入の個人差に大きく影響しているが、年齢が上がるに伴って共有環境の影響が小さくなり、遺伝の影響が大きくなる。
その結果、働き盛りの45歳の頃が遺伝の影響はピーク(50%)を迎え、共有環境の影響はほぼなくなる。つまり、「親の七光り」があるのは子どもの頃だけで、中年に差し掛かるにつれて遺伝の影響が最大化するのだ。
さらに、青年期の知能は、社会階層が高いほど遺伝の影響が大きく、社会階層が低いほど共有環境の影響が大きいことも分かった。
このような行動遺伝学の研究成果から、知能への遺伝の影響は、子ども時代は小さく、大人に成長するとともに大きくなる事実が確かめられている。学校や親が子どもに「頑張りなさい!」というのは、非科学的かつ非合理的なのだ。つまるところ、遺伝か? 環境か? 教育か? その決定権は、個人差にあるのだから……。