新年を迎え、「今年こそは運動を始めよう」と誓う人は多い。太っていれば、なおさら運動習慣を身につけようと努力しているかもしれない。だが、その誓いや志も虚しく、長続きせずに挫折してしまう――。
なぜ、運動習慣は長続きしないのか? それは、脳が<運動しないこと>を奨励しているかもしれないのだ。
『Cell Metabolism』(2016年12月29日号)に掲載された新たな報告によれば、肥満マウスの脳には<身体不活動(physical inactivity)であること>を奨励する徴候が発見されたという。
身体不活動、いわゆる運動不足は、全世界の死亡に対する危険因子の第4位(ちなみに1位:高血圧、2位:喫煙、3位:高血糖)。さまざまな不利益をもたらすことは、ご存じのとおりである。
今回の研究指導著者である米国立糖尿病・消化器病・腎臓病研究所(NIDDKD)のAlexxai Kravitz氏は、<肥満マウスが運動しない理由は、脳内の化学物質「ドーパミン」にある>としている。
「身体活動が健康によいことは明らかだが、なぜ肥満したヒトや動物が身体不活動に陥りやすいのか、その理由はよくわかっていなかった。一般には、肥満した動物は、余分な体重が邪魔をしてあまり動かなくなると考えられている。しかし、今回の知見は、それだけではすべてを説明できないことを示唆している」
「これまでの研究では、ドーパミンのシグナル伝達障害が肥満に関連づけられていた。だが、そのほとんどは、動物が違う食べ物を摂取した際にどう感じるのかという報酬プロセスに着目したもの。私たちはもっと単純に考え、ドーパミンシグナルの問題だけが運動しないことの説明になるとの仮説を立てた」
運動不足はやる気だけでは解決できない!?
Kravitz氏らの研究グループは、マウスに通常食または高脂肪食を摂取させた。すると、高脂肪食を摂取させたマウスは、体重が増加して身体活動量が減った。だが、運動しなくなったのは、<体重が増える前>であったことを突き止めたのだ。
運動しなくなる前に体重が増えていた説明の一つに、肥満で不活発なマウスはドーパミン経路の「受容体」が減っていることがわかった。さらに、体重の増加は運動しなくなったことで引き起こされている可能性も示唆された。
「多くの場合、自らの意志の力で行動を変えることができると考えられている。しかし、習慣的な行動の根底に潜んでいる生理的な基盤が明らかになれば、人間の意志では解決できない身体不活動の理由がわかるかもしれない」(Kravitz氏)
ただし、基礎研究の結果は必ずしもヒトには当てはまらないことに注意が必要だ。著者らは、ドーパミンと肥満に関連する身体不活動との直接的なつながりを結論づけるには、さらなる研究が必要だとしている。