風邪という疾患の曖昧性に問題の根がある?
いかがだろう? 出したくないが、出さざるを得ない医師らの苦しい心境が読み取れる。風邪という疾患の曖昧性に問題の根があるような印象も受ける。
たとえば、EBウイルスやサイトメガロウイルスなどの全身性ウイルス感染症による発熱も、感染性心内膜炎などの細菌感染症や膠原病などの原因不明の急性熱性疾患なども、一見すると風邪の症状と酷似しているため、風邪に見えるのだろうか?
そのような時、医師は何か重大な疾患を見逃している不安や怖さが強まるが、これらの急性熱性疾患の中には抗菌薬が有効な場合もあるため、「念のために保険的に」抗菌薬を処方するインセンティブが働くことは、否定できない。これらの複雑な事情が、現場に混乱に招いている一因かもしれない。
風邪の対策は「予防」だけしかない
風邪に抗菌薬は効かない――。
2005年に抗菌薬による治療群とプラセボ群とのランダム化比較試験(RCT)が行われた結果、症状の緩和、有症状期間の短縮、二次的細菌感染症の予防のアウトカム(成果)のエビデンスが評価され、抗菌薬の有効性は期待できないと発表されている。
抗菌薬による副作用のリスクも高い。特に成人は、胃腸障害(胃のむかつき・吐き気・下痢・便秘・腹痛・消化不良・味覚異常)、皮膚障害(かゆみ・湿疹・蕁麻疹・光線過敏症)、全身倦怠感(だるさ・筋肉痛)などのほか、腸内細菌のバランスが崩れることから、免疫力の低下にもつながる。
風邪の正体は、掴みにくい。ならば、方策はただひとつ。予防だ。耳タコだが、王道は揺るがない。手洗いとうがいの励行、マスクの着用、乾燥の防止と喉の保湿、栄養・休養・運動・睡眠による体温の保持、禁煙などだ。万が一、風邪に捕まっても、特に重い症状がないかぎり、抗菌薬を使わずに、経過を見ることが大切だ。
ただし、喉が真っ赤に腫れて痛い、急に高熱が出た、首のリンパ節がぐりぐり腫れている、咳や鼻水が一切ないなどの場合は、溶連菌などによる細菌性咽頭炎が疑われる。
また、咳がひどく高熱が続くなら肺炎の恐れや、微熱、寝汗、体重減少などがあれば、結核、がん、慢性呼吸器疾患の恐れも多分にある。このような重篤な徴候や症状が見られた時は、躊躇せずに内科や呼吸器科などを受診してほしい。
侮っても過敏になってもいけない――。風邪は「人生訓」の教師かもしれない。
(文=編集部)