5~6歳で急性腎不全になり、5~7割が改善せずに慢性腎不全に
宮崎教授によると、猫は5~6歳で急性腎不全になることが多く、そのうち5~7割が改善せずに慢性腎不全になり、およそ15歳で死に至るという。
また、日本ベェツ・グループの推計によれば、8歳で約8%、10歳で約10%、12歳で24%、15歳以上で30%の猫が慢性腎不全を発症するとしている。
なぜ猫は急性腎不全になりやすいのだろう? 『Nature Medicine』(2016年1月6日)によれば、宮崎教授と科学技術振興機構の研究チームは、血液中のタンパク質AIMが腎臓に働きかけ、急性腎不全の治癒に役立つ可能性を示唆する研究成果を発表した。
発表によれば、人の急性腎不全は、血液中のタンパク質AIMが活性化するので、腎機能が改善されるが、猫の急性腎不全は、AIMが働かないため、腎機能が改善されない事実が確認された。
AIMによる急性腎不全の治癒の仕組みはこうだ――。急性腎不全が生じると、腎臓の尿細管に細胞の死骸が詰まることから、腎機能の低下につながる。腎機能が低下すると、血液中に存在するAIMが尿中に移行し、細胞の死骸に付着する。その結果、AIMがマーカーとなって働くため、周囲の細胞が一斉に細胞の死骸を掃除することから、尿細管の詰まりが解消され、腎機能が速やかに改善されるという仕組みだ。
猫に腎不全が多い原因がは人の治療にも役立つ?
今回の研究は、マウスの比較実験だが、腎機能が低下した時の血中AIMの尿中への移行と細胞の死骸への付着は、人の急性腎不全患者でも観察されるので、AIMによる治療は有効であるとしている。
宮崎教授は「数年で猫の薬が使えるようになれば、腎不全の猫の治療や延命に役立つので、猫の寿命を大幅に延ばせるだろう。しかも、AIMを利用した薬の開発が進むと、猫だけでなく人への応用も大いに期待できる」と話している。
さて、『吾輩は猫である』の名無しの黒猫は、人間様の観察が好きでいつも人間を見ている。死ぬのが万物の定めなら、早くあの世へ旅立つ方が賢いと悟るが、ビールに酔っぱらい、水瓶で溺死する。珍野苦沙弥(ちんのくしゃみ)先生は、どんなに悲しんだだろう。猫も人間様も長命長寿なら、本望にちがいない。
(文=編集部)