シリーズ「傑物たちの生と死の真実」第20回

歴女に人気の「大谷吉継」はハンセン病だった? 梅毒だった可能性も?

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吉継はハンセン病に冒されていたか?

 吉継は、前世の罪業の報いのために発症すると妄信されていたハンセン病に罹り、醜く崩れた顔を白い布で覆っていたと伝わる。だが、信憑性の乏しい俗説は多々あるものの、江戸中期頃までの逸話集に発症を裏づける記録は見当たらない。

 なぜ、どのような経路を伝って罹患の噂が流布したのか詳らかではない。だが、何らかの重篤な眼病に罹っていた根拠は残されている。

 1594(文禄3)年10月、29歳の時、直江兼続に宛てた書状の追伸で「目の病のため花押ではなく、印判を用いた」と釈明しているからだ。

 一説によれば、発症した時期は10代後半から20代前半頃。また、梅毒が病因とする説もある。梅毒は、スピロヘータ(真正細菌)の梅毒トレポネーマが引き起こす感染症だ。

 ハンセン病は、どのような疾患だろう?

 抗酸菌の一種であるらい菌が皮膚のマクロファージ(貪食細胞)や、末梢神経細胞(自律神経と脳精髄神経)に寄生して発症する慢性の感染症、それがハンセン病だ。病名は、1873年にらい菌を発見したノルウェーの医師アルマウェル・ハンセンにちなむ。

 ハンセン病は、有史以来、天刑、業病、呪いなどと忌み嫌われ、日本では癩病(らいびょう)と蔑称された。患者の外見、遺伝病であるとの誤解や無知、根拠のない感染への恐怖が助長され、患者たちは何世紀にもわたって差別、偏見、隔離の苦悶に耐えつつ、人権を侵害されてきた。

 だが、現代では特効薬(ダプソン、クロファジミン、リファンピシンなど)による治療法(多剤併用療法:MDT)が開発され、完治する疾患だ。患者への過剰な偏見や差別につながらないように、病名はハンセン病に改められている。

 ハンセン病の初期症状は、顔や手足に白または赤・赤褐色の発疹や斑紋が現れる。痛くも痒くもない感覚障害、脱毛・変形などの皮膚障害、手足が曲がる筋萎縮・運動障害を伴う時がある。

 また、神経障害を生じるため、兎眼(開眼のままの状態)、結膜炎などの眼症状を示すほか、角膜炎を併発すれば、失明に至る場合も少なくない。

 しかも、らい菌の増殖は非常に緩慢なので、潜伏期間はおよそ5年と長い。20年もかけて症状が進む場合がある。

 感染経路は完全には解明されていない。感染治療を受けていない患者と頻繁に接触すると、鼻や口から飛沫感染する場合がある。だが、ほとんどの人は自然免疫があり、しかも、らい菌は多剤併用療法によって数日で感染力を失うため、感染力は極めて低い。

 治療をせずに放置すると、身体の変形を引き起こし、障害が残る恐れもあるが、初期治療を徹底すれば、重篤な後遺症を生じる恐れはない。たとえば、らい菌が多い(多菌型)患者なら1~数年間、らい菌の少ない(少菌型)患者なら6カ月間の多剤併用療法によって完治する。

 WHO(世界保健機関)によれば2015年現在、世界121カ国で21万3899人の患者が登録されている。日本の新規患者数は年間で0~1人と低い。ちなみに、多剤併用療法後の再発率は、0.01〜3.3人(年間100人当たり)だ。

 さて、吉継がハンセン病に冒されていたかどうかは分からない。しかし、吉継は勝ち目のない戦に身を捧げてでも、三成の友情に殉じる道を選んだ。その義理堅い人柄、私利を捨て大義に生きる男気、人間への限りない信頼と情愛が感じられる。

 敦賀城主だった吉継にちなむ敦賀市の公認キャラクター「よっしー」も人気があるらしい。ゲームソフト『戦国BASARA3』に全身包帯姿で登場する吉継の武将キャラは、差別を招かないかと物議を醸している。400余年の時空を飛び越え、吉継は背筋を伸ばして生きている!

佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。

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