大脳の神経細胞のエネルギー過剰がジャクソンてんかんを招く
ジャクソンてんかんは、どのような疾患だろう?
大脳の神経細胞(ニューロン)のネットワークに起きる異常な神経活動(てんかん放電)による神経疾患、つまり大脳皮質の運動領野の局所的な損傷による痙攣と不随意的な筋肉の収縮を伴う神経疾患、それがジャクソンてんかんだ。焦点てんかん、部分てんかんともいう。半身から全身に痙攣が波及していく特異な病態が見られることから、ジャクソン行進(マーチ)と呼ばれる。
症状は、まず身体の片側の顔面の口角に痺れや引きつりが起きる。痺れや引きつりは、やがて片側の顔面全体に広がり、片側の上半身や下半身に伝わる。最終的にもう片側にも同じ症状を呈し、全身痙攣に至る。発症しても意識は保たれているが、全身痙攣へ至れば、意識喪失を招く。原因は、脳血管障害、脳腫瘍、髄膜炎、頭部外傷、脳炎、先天性遺伝疾患などが考えられる。脳波検査による診断、抗てんかん薬の投与による治療が行われる。
最近は、分子遺伝学的な研究が進み、てんかんの原因遺伝子と染色体座の関連性が探求されている。たとえば、中枢神経系に発現するチャンネル(細胞の出入り口)の遺伝子異常や、アセチルコリンレセプター、GABAレセプターなどの神経伝達物質の遺伝子異常の機序が解明されている。今後、このような先進的な研究がさらに進展すれば、てんかんの原因の究明に活路を拓きそうだ。
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さて、ジャクソンは、名誉ある人名由来語のジャクソンてんかんを私信に一度だけだ使ったという。それほど名誉に感じていなかったのだろうか?
20数年間、73歳まで公務をソツなくやり遂げ、数々の顕彰も授けられて1908年に引退。だが、3年後の1911年、老衰のため死去。享年73。立身出世を果たし、神経学界の泰斗としての尊敬を一身に受けた生涯だった。
甥に残した遺言は「私の手紙、日記、事例研究、書簡の一切を破棄するように」だった。ちなみに、ジャクソンの愛妻・エリザベスは、てんかんで早逝したが、以来、ジャクソンは独身を通した。大英帝国時代のジェントルマンらしい高潔な人柄も偲ばれる。
*参考文献/『アルツハイマーはなぜアルツハイマーになったのか 病名になった人々の物語』(ダウエ・ドラーイスマ/講談社)など
佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。