肯定確率99.99999%の驚異の高精度
さて、親子をはじめ、兄弟姉妹、祖父母との血縁関係を調べるのがDNA親子鑑定だ。親子鑑定は、口腔内の粘膜(口内上皮)を綿棒で擦って採取した細胞からDNAを抽出する方法が一般的だ。関係者が死亡している場合は、病理標本(血液試料・組織試料)、抜歯、臍の緒、爪などを使う。これらの生体試料がない時は、複数の血縁者のDNAを解析してDNA型を推定する。
親子鑑定によって血縁関係を肯定する場合は、「生物学的な父親としては排除できない」と表現し、肯定確率は99.99999%になる。一方、血縁関係を否定する場合は、肯定確率0%だ。
どのような親子鑑定のケースが多いのだろう?
体外受精によって生まれた子どもとの生物学的な親子関係を確認する場合は、母子鑑定と父子鑑定を同時に実施するのが通例だ。今回の体外受精のように、祖父と孫の血縁関係を確認する時もある。祖父が死亡している場合は、子どもの両親のDNAを解析すれば、高精度で血縁関係を確定できる。
また、離婚後300日以内に生まれた子どもの「親子関係不存在確認」のために行う親子鑑定も少なくない。民法772条に関わるいわゆる「300日問題」だ。元光GENJIの大沢樹生さんと元妻の喜多嶋舞さんの間に生まれた長男が実子かどうか争った訴訟でも注目された。
女性が離婚後に再婚し、再婚相手との間に生まれた子どもが離婚後300日以内に生まれた場合、法律上は元夫の子と推定される、つまり、再婚相手が実父でも、父親として出生届が提出できない。家庭裁判所に申し立てる「親子関係不存在確認」は、戸籍上の父である元夫にDNA鑑定を協力してもらうのが前提だ。だが、様々な事情で元夫が協力できない時は、実父と推定される男性のDNA鑑定が認められている。さらに、結婚後に生まれ、夫が認知した子どもが実子(嫡出子)かどうかを確認するケースも多い。家庭裁判所の調停を申し立てる場合は、主に夫が嫡出否認申立(認知無効確認申立)を提起して、DNA鑑定を進める。
福山雅治さんが初の父親役に扮した映画『そして父になる』(是枝裕和:監督)に描かれたように、病院の管理ミスによる出生時の子どもの取り違え疑惑の解決のためにも一役買っている。
その他、親子鑑定は、さまざまな人生の局面で、こじれた糸を解きほぐしている。たとえば、複数の男性との関係があるため、子どもの父親を断定できない、生理周期や排卵日によって子どもの父親を決められない、離婚・離別による養育費の問題を解決したい、破綻した夫婦関係のために生物学的な父親を特定したいなど、どれも他人が推し量り得ない切実なニーズばかりだ。さらに、出生届が終わっていない子どもの戸籍を取得する、経年による出生の事実を確認する、兄弟姉妹や異母兄弟姉妹の血縁関係を調査したい、遺産相続問題を解決したい、近親婚の相手との血縁関係を知りたい、在留資格を取得したり、移民・帰化を申請する……。
まさにまだら模様の人生の縮図を垣間見るようだ。しかし、昔から、子は鎹(かすがい)という。科学的で公正な親子鑑定が夫婦や家族の感情的なトラブルを少しでも和らげ、だれもが希望を抱きながら、新たな一歩を踏み出せるワンステップになってほしい。
佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。