劣悪な環境で決まる<命の値段>~ 「パピーミル(子犬製造場)」最低限のコストで産まれる犬たち

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「パピーミル」で産まれた子犬の値段は?(shutterstock.com)

 先月、1冊の絵本が発売された。タイトルは『78円の命』(発行:株式会社メタ・ブレーン)。タイトルの「78円」は、犬が保健所で殺処分されるときにかかる費用だ。1頭につき78円のコストが掛かるという。

 絵本の作者・谷山千華さんは当時、小学6年生。あるとき、かわいがっている猫が産んだ子猫たちが、保健所で殺処分されたことを知った。それを学校で作文にしたところ、話し方大会で最優秀作品に選ばれ、道徳の授業の教材になるなど多くの人に知られる作品となった。

 そしてこのたび、作品に感銘を受けたクリエイターたちが絵本として世に出したのだ。

 犬猫が保健所で殺処分されているのは、よく広く知られる。「ドリームボックス」と呼ばれる狭い密閉空間に何頭も押し込められ、そこに二酸化炭素を充填する。犬猫は苦しみながら窒息死させられるので、決して安楽死ではない。

 ヨーロッパ諸国に根づいている「アニマル・ライツ(動物の権利)」の観点からいえば、せめて安楽死をさせるべきだが、コストや手間暇が掛かることや、手を下す獣医師の心理的な負担から、集団で窒息死させる方法がとられている。

 保健所の職員も、本音をいえば殺処分などしたくない。近年は「殺処分ゼロ」の目標を掲げる保健所が増え、中には目標を達成したところもぽつりぽつりと出てきている。

 「殺処分ゼロ」の道は、基本的には「犬猫の引き取りを規制する」「引き取った犬猫は新しい飼い主への譲渡する」の2原則である。多くの保健所が今、どちらの道も強化している傾向だ。

格安子犬を「製造」するパピーミル

 犬猫の「死の値段」が78円なら、「誕生の値段」はいくらだろうか?

 これもまた、生まれたところによっては格安だ。たとえば、俗にパピーミル(Puppy Mill=子犬製造場)と呼ばれる卑劣な繁殖業者の場合、子犬にかけるコストは最低限に抑えられている。

 パピーミルとは、営利目的の強い繁殖場のこと。繁殖用の雌犬たちが狭いケージで最低限のフードと水だけで生かされ、もちろん散歩や遊びなど一切なく、発情(生理)のたびに交配させられ、何度も何度も子犬を産まされる。

 コストパフォーマンスがいい代わりに飼育環境は劣悪だ。拷問に近い扱いのところもある。パピーミルで産まれ、そのまま繁殖犬として、ケージなかで一生を過ごすもの、うるさく鳴かないよう、業者の手で声帯を切られる犬もいる。経費削減のため麻酔なしで帝王切開される犬も――。

 不衛生な環境、不健全な扱い、多大なストレスで、どの犬も心身を病んでいく。そして、子犬が産めない体になれば、死に追いやられる。

 そうした母犬から産まれた子犬たちは、当然のことながら健康面に問題があることが多い。売り物にならない子犬も、もちろんいる。また、売れたとしても、体力や免疫が低く、販売経路の途中で感染症や疲労などで命を落とす子犬も少なくない。

 とくに、ペットオークションと呼ばれる「子犬のせり市」は、段ボールに詰め込まれてベルトコンベアで次々と流され、感染症対策も行き届かず、子犬への疲労の配慮もない。待機や移動の途中で、グッタリと息を引き取る犬もいる。

 こうした扱いの中で産まれ、流通する子犬の質は、優良ブリーダーとは雲泥の差だ。優良ブリーダーは、1頭1頭の親犬を大切に飼育し、心身共に健やかな状態で良質の子犬を産ませることに、生活すべてを注力している。

 子犬が親離れできる適齢期までは手元で大切に育て、それから新しい飼い主に子犬を引き渡す。環境にも食事にも医療にもお金がかかる。それが良質の子犬の値段だ。

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