大人の5人に1人は全く催眠術にかからない
Spiegel氏によると、「大人の5人に1人は、全く催眠術にかからない。残りの4人はその中間であり、全体の10~15%の人が催眠術にかかりやすい。12歳までの児童に関してはその率がさらに上がり、80~85%の児童が容易に催眠術にかかる」という。
しかし、「12歳以降は次第にトップダウン回路が完成するため、かかりにくくなるのが一般的である」とのこと。
そもそも、わたしたちが<見て・聞いて・感じて・信じる>という意識は、Spiegel氏のいう「トップダウン」の情報処理に基づいている。
つまり、自分が見ているのは必ずしも眼から(=外から)入った情報ではなく、その多くは過去の経験により蓄積された知識を介在して見ている(=判断している)わけだ。
そんな回路の流れを前提に、前述の①②③を読み直せば、懐疑力が低下し、集中力だけは冴えわたり、主体性に乏しい、催眠状態の人が、トップダウンの指示に従順なのがわかるだろう。カウンセリングや瞑想、偽薬(プラセボ)の効果もこれに似ている。
ちなみに、催眠にかかやすい人の場合、暗示作用で色鮮やかな抽象画から色が抜け落ちたり、灰色系の絵画に色を加えたりする情報操作も可能らしい。
『Cerebral Cortex』(オンライン版・7月28日)に掲載された論文を補足して、Spiegel氏は「催眠状態の際に脳で起こる事象を示した研究は、今回の我々の試みが初めてだと自負している。この知見を活かし、治療に役立つ催眠反応を強化するきっかけとしたい」と語っている。
Spiegel氏によれば、現時点で禁煙治療や、痛みやストレスへの対応法に「催眠」が有用であることが判明しているそうだ。催眠の応用が進むならば、かかりやすい人のほうが<救われる>という疾患や事例が出てくるかもしれない。
(文=編集部)