待機児童は増え続ける要因は何か?
まず、自治体が新たに認可保育所をつくるための用地不足だ。認可保育所とは、児童福祉法に基づいて、施設の広さ、保育士などの職員数、給食設備、防災管理、衛生管理など国が定めた設置基準を満たし、都道府県、政令指定市、中核市が設置を認可した保育所をいう。
だが、設置基準をクリアする認可保育所の用地を都市圏で確保するのは容易ではない。高い地価、財源不足、賃金が低く仕事がきつい保育士の就労拒否も追い打ちをかける。送迎によるクルマの騒音や渋滞、子どもの声を嫌う近隣住民の反対運動も激しい。
待機児童が増える根本原因は、保護者の生活状況にある。とくに2008年のリーマン・ショック後、終身雇用・年功序列型の賃金制度が崩れるとともに、成果報酬型の雇用形態や非正規雇用が主流になったことから、雇用が一気に液状化した。その結果、共働き世帯が急増し、保育への緊急性が高まった。
しかし、認可保育所のハードルは高い。認可保育所は、夫婦ともフルタイムで働く正社員の0歳児の入所が最優先されるが、翌年はその子どもが1歳児の定員を埋めるので、新規に申込む1歳児には、ほとんど枠がない。
難題が山積するが、親の願いは一つ。仕事と子育てを両立しながら、子どもを無事に成長させることに尽きる。保育所を作れば、女性が働く機会が増える。女性が働けば、待機児童は減る。この単純明快な道理を阻んでいる悪因は何なのか?
たとえば、スウェーデンでは、保育所への申し込みがあれば、自治体は保育所を確保する義務があるので、待機児童はあり得ない。次世代の育成を優先するのが国政の基本戦略のため、国民の合意を形成しながら、消費税25%の高福祉・高負担の社会保障システムは、高齢者の年金の支給水準を下げたり、受診を制限して医療費を抑制して公平にキープされている。
かたや、日本はどうか? 児童1万人あたりの待機児童が沖縄・東京に続き全国3位の仙台市。雇用環境が良好で人口流入が活発化し、待機児童が激増する首都圏。結婚・子育て・介護の両立という壁に阻まれて働く女性が伸び悩む大阪。保育所の整備率が高く、勤労女性も多い石川・福井・富山の北陸地方。震災の影響で財政難に陥り、保育所の定員増を図れない熊本。保育所の整備が遅れ、所得が低い共働き世帯やシングルマザーが多い沖縄……。
日本社会に蔓延している待機児童問題。一筋縄では行かないように見える。
待機児童を抱える女性に「産んだのはあなたでしょ。親の責任でしょ」とバッシングできても、票田である高齢者に「年金も医療も介護も自己責任で払え」とは口が滑っても言えない。大衆迎合のダブルスタンダードは、政治の一選択肢かもしれない。
だが、安心して子供を産み、働く意欲があるすべての人が働ける環境をつくる、それが「一億総活躍」のゴールのはず。「潜在的待機児童171万人ゼロ」に向かわなければ、この国の未来は危うい。
(文=編集部)