人類の進化の謎を解く大発見(shutterstock.com)
2月18日、BBCニュースは、現人類であるホモ・サピエンス(ラテン語の賢い人間)が、通説より数万年も早い時期にユーラシア大陸に到達し、ネアンデルタール人と異種交配(性交渉)していたと報道した。
英国科学誌『ネイチャー』に掲載された研究論文の共同執筆者で、ドイツ・マックス・プランク進化人類学研究所のセルジ・カステラーノ氏は、「ホモ・サピエンスが通説より約3万5000年も早いおよそ10万年前に、東アフリカを離れ、中東以北のエリアに生存していたことを示す最初でかつ最古の遺伝学的証拠になる」と語った。
「人類大移動」のルーツを塗り換える大発見!
カステラーノ氏は、ロシアとモンゴルの国境沿い、シベリア南部のアルタイ山脈の洞窟で発見されたネアンデルタール人女性のゲノム(21番染色体)をDNA解析したところ、ホモ・サピエンスのDNA配列の痕跡を確認。この女性は、ホモ・サピエンスとネアンデルタール人との異種交配(性交渉)によって産まれた女性であり、ホモ・サピエンスのDNAがネアンデルタール人に受け継がれた紛れもない事実を裏づけている。
従来の通説では、ホモ・サピエンスがネアンデルタール人に初めて遭遇したのは、ホモ・サピエンスがアフリカ大陸から出た約6万5000年前と考えられていた。だが、今回のアルタイ山脈のネアンデルタール人女性と異種交配(性交渉)したホモ・サピエンスは、約6万5000年前にアフリカを出て、ヨーロッパやアジアに移住した集団ではなく、それよりもさらに約3万5000年も遡ったおよそ10数万年前に、ホモ・サピエンスから枝分かれしてアフリカを離れた集団と推定される。
なぜ、推定できるのか? 時間の針を少し過去に戻さなければならない。
現人類は、ホモ・サピエンスに属しているが、生物学上の分類は、長ったらしい名称になる。動物界・脊索動物門・哺乳綱・霊長目(サル目)・ヒト科・ヒト属だ。ヒト属とチンパンジーの共通祖先が枝分かれしたのは、およそ200万〜1000万年前、ホモ・サピエンスとホモ・エレクトスの共通祖先が枝分かれしたのは、およそ20万(50万)〜180万年前と見られる。
その後、幾多の交配や絶滅を繰り返しつつ、人類は3つのルートに分かれて、それぞれの進化の道を辿る。アフリカを出ずにアフリカにとどまったネグロイド(黒人)、およそ20万年前に出現し、他の集団に先駆けてアフリカを出たネアンデルタール人、およそ10万年前にアフリカを出たホモ・サピエンスの3ルートだ。
すなわち、ネアンデルタール人は、およそ3万年前に絶滅しているので、少なくとも数万年間にわたって、ホモ・サピエンスとネアンデルタール人は、中東やその周辺エリアを生活圏としつつ、異種交配(性交渉)できる環境で共存していたと推察できる。
先述のように、最初のホモ・サピエンスが東アフリカで誕生したのは、およそ20万年前だ。ところが、中国南部では、およそ8万~12万年前のホモ・サピエンスの歯が発見され、イスラエルのスクール遺跡やカフゼ遺跡からは、およそ9万2000年前のホモ・サピエンスの化石が出土している。
つまり、およそ8万~12万年以前に、ホモ・サピエンスは東アフリカから離れてアラビア半島を横断した後、一方の集団は中東から中央アジアやシベリアに向かって北進してネアンデルタール人に遭遇・接触し、もう一方の集団は中東から東アジアや中国に向かったと推定できる。