中村祐輔のシカゴ便りより
SMAPが、解散するとか、しないとかが、日本のメディアを沸かしているようだ。私が「膨大な患者さんの臨床情報やDNAを収集する」バイオバンク・ジャパン(オーダーメイド医療実現化)プロジェクトを始めた2003年に、「世界に一つだけの花」というSMAPの歌を耳にして、「このプロジェクトのテーマソングはこれだ」と直感した頃をなつかしく思い出した。
プロダクションにお願いして、シンポジウムなどの会場でこの曲を流す許諾を得て、流していた。快く承諾していただいた事務所には今でも感謝の気持ちで一杯だ。
ゲノム研究は遺伝子差別を増長する。そんな時代遅れの理不尽な批難を浴びる中で
「そうさ 僕らは 世界に一つだけの花 一人一人違う種を持つ
その花を咲かせることだけに 一生懸命になればいい」
を訴えて、先天性疾患や遺伝性疾患に対する偏見を無くすための一助に、このプロジェクトが貢献できればいいと考えた。
オーダーメイド医療を実現化するために、医療情報とゲノム情報を連結して、病気の予防・薬剤の使い分け(薬が効果的な患者さんを選び、副作用リスクの高い人には投与しない)に活用するのが主目的だったが、遺伝子を正しく理解し、遺伝子差別を作らないようにする機会にしたいと考えた。
「差別を回避する」日本の学校教育
このブログでも触れたことがあるが、「遺伝子の違いが差別を新たに生む」わけではない。社会に存在している「病気、特に精神疾患、先天性疾患や遺伝性疾患に対する差別意識」が「遺伝子の違いを材料にする」だけだ。
ゲノム情報は多様性に富んでおり、一卵性双生児でない限り、そのゲノムは一人一人違っているのだ。姿かたちの違い、病気に罹るリスクの違い、薬剤に対する効果や副作用の違い、これらを科学的に理解することは21世紀を生きる日本人には不可欠だと確信している。
病気の人、病気でない人との線引きをするが、病気も多様性の一つとして、社会全体がお互いを理解し、敬意を払うような教育が不可欠だ。日本の学校教育は、「差別を回避する」と称して、遺伝子と病気の問題に真っ向から取り組むことを避けてきた。
遺伝病であれ、先天性疾患であれ、科学的な背景をしっかりと教え、人間の尊厳を尊ぶ教育をすべきなのだ。くさいものに蓋をするのではなく、くさいと考えることが間違っていると教えるべきなのだ。
多様性を理解し、それぞれのゲノム(種)に敬意を払い、そして、花を咲かせるようにみんなで協力できる、そんな社会にすべきだと思う。
私はくだらない芸能界のネタに全く関心は無いが、SNP(スニップ、遺伝子の一つの暗号の違いのこと)とSMAP(スマップ)は似ているし、「世界に一つだけの花」の歌詞は非常に教育的だと思うし、プロジェクトの推進に当たってお世話になってきた。
したがって、SMAPだけは、私にとっては別格に心が魅かれる「特別なOnly One」なのだ。
SMAPには、是非頑張ってほしいし、霞んできたSNPプロジェクトも頑張って欲しいものだ。
※『中村祐輔のシカゴ便り』2016/0126 より転載