精神生理学に基づいて行なわれるポリグラフ検査には、対照質問法と緊張最高点質問法の2種類がある。
対照質問法は、被疑事実について尋ねる「関係質問」、容疑者が心理的な抵抗がなく返答できる「対照質問」、全く関連性のない質問をする「無関係質問」を織り交ぜて質問し、容疑者の動揺度や有罪意識を確認する。鳥の目になって容疑者を見つめつつ、犯人か犯人でないかを大雑把に判断するのが目的だ。
たとえば、「Aさんを殺したのはあなたですか?」(関係質問)と「Aさんを殺したのはBさんですか?」(対照質問)をセットで尋ねる。関係質問と対照質問を織り交ぜると、関係質問に対する生理的変化が大きく現れる。関係質問で示された反応が、対照質問で示された反応より大きいなら虚偽徴候がある、同等または逆なら虚偽徴候なしと判定する。
一方、緊張最高点質問法は、犯人しか知らない事実を尋ねる「裁決質問」とその他の「非裁決質問」を織り交ぜて質問し、容疑者の事実認識を確認する。虫の目になって容疑者を見つめつつ、細部に注目して犯人を特定するのがねらいだ。
たとえば、100万円の強盗事件で強奪額が警察と被害者と真犯人しか知らない場合、「50万円ですか?」「100万円ですか?」「300万円ですか?」と裁決質問で強奪額を尋ねる。すべての質問に「いいえ」と答えさせ、どのような生理反応が出るかをチェックする。100万円に最も反応すれば、虚偽徴候が高い。ホシの可能性が濃いと判定する。
このように、ポリグラフ検査は、質問に対する記憶認識が強いか弱いか、自我関与度が高いか低いかによって誘発される定位反応(刺激を見極めようとする生理的な行動反応)を判定する検査手法だ。つまり、記憶認識や自我関与度の有無が、呼吸波、心拍数、脈波、皮膚電気伝導度などの生理反応に現れやすいという事実に基づいているに過ぎない。
したがって、問題点や限界もある。たとえば、容疑者が妄想を現実だと誤信していたり、病的なほど虚言癖があったり、嘘をつくことに抵抗がない性癖が強かったりすれば、緊張感や生理反応が現れにくいため、効果は余り期待できない。その反面、緊張しすぎる容疑者も効果が薄い。検査を受けている状況だけで緊張し、緊張は検査の結果なのか、嘘をついた結果なのか判然としないからだ。
このようなことから、ポリグラフ検査の信頼性への評価は分かれる。検査結果は、有罪を確定する証拠能力は弱い。生理的変化と供述内容の真偽は必ずしも一致しないので、証拠となりにくい。あくまでも容疑者の供述の信用性を判断するひとつの目安に過ぎない。
だが、容疑者が真犯人なら心理的なプレッシャーを確実に与える。今後も、他の鑑定法のアプローチを組み合わせれば、科学捜査を支える有力な鑑定ノウハウになるのは確かだ。
佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。