日本の社会保障は本当に大丈夫なのか?shutterstock.com
『地域包括ケアの課題と未来』編集雑感 (3): 小松秀樹「人口の変化と社会保障」を語る
日本では、合計特殊出生率が低い状態が長期間継続している。今後、一貫して出生数が減少し続ける。このため、20歳から64歳の現役世代が減少し続ける。
問題は社会保障である。人口の大きい団塊世代、団塊ジュニア世代が高齢化していく。65歳以上の高齢者人口がピークになる2042年には、1人あたりの負担を固定して単純計算すると、高齢者1人あたりの社会保障給付が2010年の3分の1程度になる。2057年には後期高齢者人口が前期高齢者の2倍を超え、状況はさらに悪化する。社会保障制度に頼る人がいる状態で、給付が減らされると、適応できない人が増えてくる。対応を誤ると餓死が日常的現象になる可能性がある。
官僚とメディアは高齢化の絶望的な未来をひた隠す
近年、「2025年問題」という言葉が使われているが、2025年に問題が生じる、あるいは、2025年に最悪の状態になり、その後改善されるという誤解を与えかねない。2025年は通過点にすぎず、状況はその後も悪化し続ける。筆者が直接見聞した限りでは、中央官庁のキャリアは、国立社会保障・人口問題研究所の推計が示す絶望的世界を正しく認識している。しかし、行政もメディアも国民に正直に伝えていない。
はたして、国立社会保障・人口問題研究所の推計通りに事が運ぶのだろうか。危機が大きければ社会の側に対応が生じ、未来予測の前提が崩れる。グンター・トイブナーは「社会科学においては、将来の出来事の理論的予測はあまり流行らない。まして、予測どおりの出来事が起こるのは稀だというのが、普通である。」(グローバル化時代における法の役割変化『グローバル化と法』マルチュケ、村上淳一編)と述べている。
筆者は「人口の変化と社会保障」の中で、以下の結論を述べた。
「将来の現役世代を増やし、その収入を増やさない限り、日本の社会保障を維持するのは困難である。出生率が向上しなければ、大規模な移民を受け入れざるを得ない。移民してもらうとすれば、収入の少ない単純労働者ではなく、高学歴層でなければ、社会保障を支えるのに役立たない。起業能力のある人材が欲しいが、移民する側にとって、日本に魅力があるかどうか分からない。」
上記結論は、国民国家の枠組みにとらわれ過ぎていたと反省している。危機的状況になったとき、日本の国民国家としての在り様に変化が生じる可能性がある。危機が大きいだけに、国家と日本人の根幹部分に変化がなければ対応できない。
国民国家とは、現在の日本人が想起する「普通の国」のことである。固有の法体系によって統治され、国土、官僚群、常備軍を持ち、国民は国籍を有する。他の国家に対して利己的に振る舞う。国民の同質性を求める考え方をとることが多く、複数の民族を抱える国で、紛争の原因となった。
国民国家につながる主権国家体制は30年戦争の後、1648年、ウェストファリア条約によってもたらされた。国民国家とは、歴史的には比較的新しく、きわめて人工的なものである。未来永劫継続するとは限らない。