シリーズ「傑物たちの生と死の真実」第12回

松尾芭蕉の死因は? 食中毒、赤痢、感染性腸炎、胆石症、それとも旅の疲れ!?

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 芭蕉の死因は何か? 食中毒、赤痢などの諸説があり、定まらない。感染性腸炎による食中毒なら、発熱、下痢、悪寒の期間が長すぎる。記録によれば、この年、大坂で赤痢、腸チフスの流行はなかった。

 長旅の疲労や、仲介の心労、句会での体力消耗が重なり、免疫力が低下したために、何らかの感染症に冒されたのか? 潰瘍性大腸炎かもしれない。感染性腸炎は、サルモネラ菌や病原性大腸菌などの細菌、ノロウイルス、赤痢アメーバやランブル鞭毛虫などの寄生虫が腸に感染して発症する。食べ物や飲料水からの感染は、しばしば集団発生し、食中毒になる。芭蕉は、死の直前に椎茸を食したらしいが、同席の人たちも食したので、椎茸は原因とは考えにくい。

 潰瘍性大腸炎はどうか?  潰瘍性大腸炎は、主に大腸粘膜に潰瘍やびらんを発生する炎症性疾患。粘血便、下痢、腹痛などを起こす。現在、罹患数は、米国約100万人、日本約11万人。20~30代や50~60代に多い。厚生労働省の特定疾患に指定され、クローン病とともに炎症性腸疾患(IBD)に分類される難病中の難病だ。17世紀末の元禄の世なら、芭蕉が存命する道はなかったかもしれない。

 持病の胆石症はどうか? 胆石症には、肝臓にできる肝内結石症、胆嚢にできる胆嚢結石症、胆管にできる胆管結石症がある。主な原因は、胆汁の中のコレステロールと胆汁酸のバランスが崩れ、胆嚢粘膜から分泌されるムチンが結晶化するコレステロール結石だ。

 芭蕉は70句もの酒歌を残している。「川舟やよい茶よい酒よい月夜」「宵のとし空の名残惜しまむと、酒呑み夜更かして、元日寝わすれたれば」(大晦日の深酒でせっかくの元日を寝忘れてしまった)などとかなりの酒好きだったようだ。長年の酒癖が、アルコール依存症や胆石症につながった恐れもある。三重県の「俳聖芭蕉」「芭蕉紀行」、宮城県の「奥の細道」など、芭蕉にちなむ銘柄が愛飲されているのは、微笑ましい。

 死後8年を経た1702(元禄15)年。紀行文「おくのほそ道」が刊行される。風まかせ、雲まかせの旅路の遥かな追憶。300年の歳月を越えてもなお、その一句一句は、日本人の胸を騒がせる。

 野ざらしを心に風のしむ身哉
 古池や蛙飛びこむ水の音 

 武将・木曾義仲とともに眠る草葉の陰。芭蕉の耳元に戯れているのは、風の音なのか、水の音なのか?


佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。

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