少子化対策にやっきになっているお役人を、がっかりさせるようなデータが発表された。
今年6月に発表された日本生命によるアンケートによると、独身の契約者2万483人のうち、その24%が「結婚したくない」か「あまりしたくない」と答えたという。これを男女別に見ると、なんと女性の31%が「したくない」か「あまりしたくない」と結婚に後ろ向きであり、男性は16.3%だった。
続いて政府が発表した2015年版『少子化社会対策白書』によると、未婚で恋人がいない20~30歳代の男女に「恋人がほしいか」と尋ねたところ、「ほしくない」が37.6%を占めたという(男36.7%、女39.1%)。結婚だけでなく異性に対しても、4割近くが消極的なのである。
人間のセックスの特異性
たいがいの生物の一生は、子孫をつくること、自分のDNA(遺伝子)を残すことだけに費やされる。メスは自分のDNAに優秀なDNAを加えるために優秀なオスと交尾しようとするし、オスは少しでも多くの自分のDNAを残そうと、たくさんのメスにアタックする。
ところが人間だけは、ちょっと違うのである。米国の進化生物学者、ジャレド・ダイアモンドの『人間の性はなぜ奇妙に進化したのか』によると、人間が他の生物と違うのは次の6点だという。
①男女が長期に渡ってペア関係を維持し、繰り返し同じ相手と性交する。
②男女で子どもを育てる。
③カップルだけで孤立するのではなく、社会の一員として他のカップルと協力しあう。
④ふつう2人だけで内密に性交する。
⑤女性の妊娠可能な時期がわからないため、妊娠が不可能な時期にも性交する(たいがいの生物はメスが妊娠可能なときにしか交尾しない)。
⑥女性は閉経期を迎えると生殖能力がなくなる(たいがいの生物のメスは、寿命まで生殖能力がある)。
なるほど、人間の一生は、他の生物と比べるとずいぶんと特異だということがわかる。そして新たに7番目として「産まない選択をすることもある」という項目を付け加えることができるかもしれない。
日本の人口は現在の4分の1でいい!?
ここで思い出されるのは、湖や川に棲む体長1〜2mmのプランクトン、ミジンコである。ミジンコは卵で増えるが、通常はメスばかりが生まれる。メスがメスを産むメスだけの世界だ。ところが、水温が下がったり、水が涸れたりすると、オスが生まれてくる。そしてメスはオスと交尾し、厚い膜と殻に包まれ厳しい環境の中でも孵化できる耐久卵を産む。ここから生まれるのはメスである。
このようにミジンコは、「悪い環境下ではオスが出現する」という戦略によって生き残ってきた。生物は、子孫を残すためには驚くような戦略もとりえるのである。
現在、世界の人口は約69億人。20世紀の初頭は約16億5000万人だったと推測されているから、100年余りでなんと4.2倍も増えている。さらに2050年には89億人にも達すると予想されている。
この数字を見れば、「こんなに増えて大丈夫だろうか?」と誰もが思うだろう。急激な増加は、それだけで環境を破壊していくことにもなる。生物は環境に適応して生き残っていくものなのに、破壊してしまっては元も子もない。
明治の中期、日本の人口は約5500万人だった。1960年代後半に1億人を越え、その後も増え続け、ピークは2004年の1億2784万人。その後ゆるやかに減少しているが、2015年では1億2616万人である。もちろん、高齢者を支えるために若者が増えないといけないという議論もあるが、一方、日本の適正人口規模は、今よりもずっと小さくてよいと考える人もいる。そのなかには「現在の4分の1でもいい」という識者もいるほどだ。
女性が結婚や出産に消極的になるののは、価値観の変化や「生みづらい」「育てづらい」などの環境とともに、生物としての本能的な人口抑制のブレーキだと考えるのはいいすぎだろうか。
(文=編集部)