この写真の衝撃はすさまじく、すぐさま世界中のメディカが取り上げたが、結局、この研究結果にはその手法やデータ解析などに関して科学界から大きな疑問の声が寄せられ、その正当性に疑問が続出。論文を出版する出版社は、「捏造や不当表示の証拠はみつからないが、元々がんにかかりやすい種類や少ない個体数を対象に行われた動物実験では、決定的な結論へと導くことはできない」として、論文を撤回した。
当のセラリーニ博士は、研究の正当性を主張する一方で、論文の選考委員の1人がモンサントで7年間働いたことを理由にモンサント社の圧力であると主張して議論は平行線のままだ。
「欧州食品安全機関」(EFSA)は、「実験設計と方法論の深刻な欠陥があり、許容できる研究水準に達していない。NK603のリスク評価を見直す必要はない」という見解を発表している。
しかし、いずれの主張が正しいかは未だ判明していないが、こうした議論が国際的に進んでいることさえ日本では表のメディアには出てきにくい。しかし、事態はさらに急速な展開を見せている。
遺伝子組み換え食品のイメージはこれまで作物、つまり植物の範囲にとどまっていたが、2012年米国FDA(食品医薬品局)は、遺伝子組換え動物食品としては初めてとなる、「遺伝子組み換えサケ」を環境への影響はない、食品としても安全だ、と発表した。
このサケは通常の2倍のスピードで成長し、体長が従来の2倍、重さが8倍というきわめて生産効率のよい魚だ。米国マサチューセッツ州に本社があるバイオテクノロジー企業、アクアバウンティ・テクノロジーズ(AquaBounty Technologies)が開発したもので、カナダ政府は、100,000個の卵をカナダ東部のプリンス・エドワード島から、パナマ西部のチリキ県に輸出することを承認した。
最終的にはまだ人間の食用としては許可されていないが、カナダの地元では環境や生態系への悪影響を懸念する声が高く"フランケンフィッシュ"と呼ばれる。2012年の日本におけるサケの供給量は61万3千トン、その約半数は輸入に頼っているだけに、こうした事態には関心を払わざるを得ない。
遺伝子組み換え作物・食品をめぐる論争は非常に分かりにくく、それぞれのサイドのもっともらしい論客がそれぞれの主張を繰り返す。そこには遺伝子組み換え作物の市場を国際的に独占する少数の巨大企業の思惑も見え隠れする。
すでにわれわれの食生活は遺伝子組み換え作物なしには成立し得ないところまで来ている。だからこそ継続的な議論と関係機関・企業からの情報開示、さらには遺伝子組み換え食品に関する表示義務の適正化は必須だ。
(文=編集部)