「リカバリー(回復)・ミーティング」は、世界的にポピュラーな依存症者の治療法のひとつだ。治療効果が高いことで知られている。
参加者が輪になって話し合いをする場面が、外国映画のワンシーンに出てくるが、まさにそれだ。同じ体験をした者が、定期的に顔を合わせ、話し合いや傾聴しながら、自己開示したり共感したりするなかで、再発防止の力をつけていく。
ただ、定期的にミーティングに参加するだけ。だが、それを継続するところに意味がある。ギャンブルから足を洗い、日常生活を取り戻した今も、多くの人がリカバリー・ミーティングに通い続けるのはなぜか。それは、彼らが本当にリカバリー(回復)していないからだ。依存症は"不治の病"といえる。
最近では、脳の働きを調べるPET(ポジトロン断層法)検査による研究が進み、依存症は脳の病気と位置づけられている。一度 この"病気"にかかると、「快感」や「高揚感」を感じる脳内物質「エンドルフィン(麻薬様物質)」の作用が、健全な人とは異なってしまう。
つまり、依存症になると、普通の人が興奮するような、たとえばスポーツなどでは高揚感を得られず、ある特定の刺激に反応する。脳内麻薬といわれるエンドルフィンが多量放出され、たまらない誘惑を感じるように変化してしまうのだ。
いつまでもギャンブルの誘惑がつきまとう。表面上、治ったように見えるだけ。いつまでも、ギャンブルの快感に再びおぼれそうになる自分と闘い続けなければならないのだ。
治らない病気を一生背負い続ける
闘うのは、自分だけではない。ギャンブル依存症に金銭トラブルはつきものだ。必ず、家族を巻き添えにする。経済的、心理的な家族の痛手は大きい。
「ワン・ホープ・センター」では、利用者は必ず最初にマネー・カウンセリングを受ける。負債額を明らかにし、返済の可否や自己破産の道筋などを、家族を交えて検討する。家族を返済義務から守るため、あるいは関わりを拒否して離婚するケースは多い。後始末の大きさは、ギャンブル依存症の特徴だ。
また、一家に子どもがいると、影響力はさらに増す。進学や希望の仕事への就労など、子どもの将来の選択肢の幅は、ぐっと狭まる。親の甚大なストレスにさらされ、あるいは家庭内暴力を受けたりして、精神的に不安定になる子どももいる。精神疾患を発症するケースも少なくない。
すべての発端は、ギャンブルだ。ギャンブル依存症は、傍目には日常生活に見えても、本人には闘いの毎日が10年、20年経っても続く。
「ワン・ホープ・センター」のある"十年選手"は「何年経っても、休日が怖い。ひまな時間があると、ギャンブルの誘惑に負けそうになる」と嘆く。別の男性は「先週もギャンブルの高揚感から逃げたい気持ちになった。一日中、不安と恐怖にやられた」と話した。
れっきとした病気だが、特効薬はない。「二度とギャンブルはしない」と、気を確かに持ち、誘惑を遠ざける生活を続けるしか、再発防止の手立てはない。それには、同じように辛酸をなめた仲間と定期的に会って、互いの無事を確かめ合い、苦しさを吐き出し、励まし合うリカバリー・ミーティングが功を奏する。
参加者の一人はいう。「最初は皆、本当に絶望的だ。私も家族に連れられて、ここに来たときは、お先真っ暗。でも、金策のカウンセリングを受けて一筋の光が差し、ミーティングで体験者の思いを聞き、少しずつ孤独感が和らいだ。やっと少しだけ、笑えるようになった。もう笑いのない生活には戻りたくない」
日本でもギャンブル依存症者のリカバリー・ミーティングは、全国的に開かれているが、民間の自助グループが、カジノ解禁の余波をどこまで受け止めきれるかは未知数だ。
(文=編集部)
参考〉
http://onehopecentre.org
http://www.medicaldaily.com/gambling-addicts-brains-dont-have-same-opioid-systems-others-307392
http://news.asiaone.com/news/singapore/hard-pin-down-social-costs-irs