事態は急転回する。昨年10月、イギリスのインディペンダント紙は、このDNA鑑定には基本的なミスがあったと報道した。エドワーズから鑑定を委託された生物学者は、「314.1C」という珍しいDNA変異を発見したと報告している。しかし、DNA塩基配列の一致率を算出する時に、小数点の位置を間違えて計算したため、検出されたDNA変異は、ヨーロッパ人の99%が持つごくありふれたDNA変異だったらしい。この一致率なら、当時のヨーロッパ人のほぼ全員が切り裂きジャックということになる。
したがって、カレンとショールの血痕から見つかったDNA変異がコスミンスキーのDNA変異と一致するとは、必ずしも断言できない。真犯人がコスミンスキーである明確な根拠はない。エドワーズの書籍を刊行した出版社は、鑑定ミスを調査中だという。
切り裂きジャックは誰なのか? 推理小説『検屍官』シリーズで知られる作家パトリシア・コーンウェルは、画家ウォルター・シッカートを真犯人と推理している。今なおリッパロロジスト(切り裂きジャック研究家)の熱論は冷めない。切り裂きジャックにピリオドが打たれる日は来るだろうか?
佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。