初心者はおにぎりから。刻んで加熱して混ぜるだけ
環境分野で初のノーベル平和賞を受賞した、ケニアのワンガリ・マータイさんを記憶しているだろうか。彼女が2005年に来日した際、非常に感銘を受けたというのが「もったいない」という日本語だった。
この「もったいない」という言葉は、ゴミ削減(Reduce)再利用(Reuse)、リサイクル・再資源化(Recycle)の3つのR=環境3Rをひとことで表せる。さらに4番目のR、尊敬の念(Respect)までも込められているとし、「MOTTAINAI」を世界のアイコトバとして広めていく活動を行っていた。
ワンガリさんはその後、惜しくも2011年に永眠。その精神を尊び、日本人の心に「もったいない」があらためて刷り込まれたことは確かだ。
だが一方で、日本は世界1、2位を争う食品廃棄大国だ。年間1900万トン~2700万トンともいわれる日本の食品廃棄量。そのうち、「まだ食べられるのに捨てている」、いわゆる「フードロス」「食品ロス」は500万トン~900万トンにも及ぶ。
ひとり当たり、年間15キロものフードロスを生み出している計算だ(平成21年農林水産省統計)。自給率の低い日本は、食の多くを輸入に頼っている。だが、お金に換算すると200兆円以上かけて食材を輸入し、結果的にはその半分の約100兆円分を廃棄していることになる。
料理のMOTTAINAI、「サルベージ料理」
「もったいない」思想の正反対にある日本だが、最近「サルベージ」という言葉が料理のトレンドとなっている。
本来「サルベージ」は、サルベージ船などの「引き揚げ」や、IT業界のデータサルベージの「復帰作業」のように、救助する、助け出す、復帰させるなどを意味する。
料理でのサルベージは、出番をひたすら無言で待つ食材たちを「救出する」ことだ。缶詰、調味料、乾物などをはじめ、家の冷蔵庫や食品棚には、半分眠ってしまっている食材がある。
使い切らずに残った粉類、重複して買った調味料......。冷蔵庫や食料庫の片隅に残る食材を、見て見ぬふりをしている人はいないだろうか。「使い切れなかった野菜は週末にカレーにでも」、それでも"救い出せない"食材があるはずだ。
それらを救出するのがサルベージ料理。「食材を救うためにみんなでできること」と謳い、知恵を集め、レシピを公開しているサイトも人気だ。
料理研究家や人気シェフなどを招いた、イベントやセミナーも盛況だ。サルベージを提唱する料理は、もてあましている食材をただ使い切るというのではない。その素材にスポットをあて、きちんと役割を与え、おいしい料理として食卓にのぼらせる。
「こんな使い道があった!」とレシピの幅が広がり、「こう使ってみよう」と新たな発想も生まれ、ワクワクする。時にはみんなで食材を持ち寄り、工夫を凝らした「サルベージパーティー」を催す。
食材を使い切ることを美徳とする考え方は、和食の世界では古くからある。食材をあますところなく使い切ることが、"命"をいただくことへのリスペクトなのだ。
京都の方言に「しまつ」という言葉がある。「節約する」、「倹約する」、「無駄遣いをしない」ことを表す、つまりは「もったいない」の考え方だ。
酸っぱくなったたくあんは、ゴマ油で炒めて煮て、出汁をとったあとの鰹節と混ぜ、冷やしていただく。捨てられがちな根菜の皮は、実は栄養がある。うすあげとともにおからにまぜて「おからのたいたん」に。野菜のゆで汁は、モヤシの上からかけて熱を通したり、まな板を洗えば肉や魚のニオイもとれる。まさにサルベージの発想である。
サルベージ料理初心者には「おにぎり」を勧めたい。保存のきく、味の濃い缶詰などは、残り野菜とともにみじん切りにして火を通し、ごはんにまぜこめば、たいていおいしいおにぎりに変身する。発酵させる、漬ける、干すなどの昔ながらの方法も、食材をよみがえらせてくれる。塩ひとつでしなびた大根が箸休めの漬け物になる。
食の新たなトレンドとして脚光を浴びつつある「サルベージ料理」。一部の人だけが実践したり、流行で片付け廃れてしまっては、もったいない。
(文=編集部)