視覚と聴覚の情報統合をさえぎる「歩きスマホ」の危険性

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増加している「歩きスマホ」による事故

 近年、歩いたり自転車に乗ったりしながら携帯電話やスマートフォンを操作する「歩きスマホ」による事故が、年々増加している。

 東京消防庁の調べでは、2013年に「歩きスマホ」で事故に遭い救急車で搬送された人が東京都内で36人。この数は2010年の約1.5倍で、過去4年間で最多だった。

 「電気通信事業者協会(TCA)」が2014年12月に行った調査では、都市部のスマホ利用者600人のうち、普段から「歩きスマホ」をしている人は44.8%と半数近くに上った。以前より「歩きスマホ」をする人が増えていると思うか、という質問に対しては、85.5%が「増えている」と回答。また、3人に1人が「歩きスマホ」でぶつかりそうになった経験あり、実際にぶつかったり、ぶつかられることが多いのは駅で、特に「駅の通路」との回答が36.7%となった。

 私たちは周囲からの音や映像の情報を得て、危険回避の動きをとる。スマホの画面に目を奪われたり、通話によって周囲の音を脳が意識的に遮断することの危険性は、さまざまな実験で証明されている。

映像と音のズレの許容量は0.08秒

 ヒトの脳内では、常に視覚と聴覚の情報統合が行われている。視覚で得られた情報に対し聴覚が音源の位置をずらして処理しているため、たとえば、スピーカーとモニターを離しても「アナウンサーがニュースを読んでいる」と認識する。これは「ダイナミック・ビジュアル・キャプチャー」と呼ばれている。映像と音のズレの許容量はプラスマイナス80ミリセカンド(0.08秒)程度といわれており、これ以上の誤差が起きると脳は「何か変だ」と反応するのだ。
 
 画像と音声を合わせることを専門用語で「リップシンク」という。視聴者は、テレビ画面に登場する人の口元を無意識に見て、脳内で音声を統合している。ヒトの感覚では、映像より音声が40~80ミリセカンド遅いほうが自然に感じるという。

 外国ドラマなどの日本語吹き替えでも、声優による音声は若干遅いが違和感はない。一方、見慣れたアニメの主人公の声優が変わっただけで話題になるのは、まさにヒトが顔(視覚情報)と声(聴覚情報)で「その人」を認識している証拠だ。

 また、画面上では外国人女性が話しているのを、男性による同時通訳音声が流れていると、視聴者は微妙な違和感を覚える。脳で「これは同時通訳だ」と理解していても、外国映画の吹き替え版などを鑑賞する習慣があると、この違和感が顕著に現われるのだという。

 ヒトの脳内で視覚と聴覚の占める情報量は、その行動を左右するほど大きい。今後も視聴覚の情報統合や錯覚を利用した面白い効果が研究され、デジタルデバイスの進化と追求は続いていくのだろう。しかし、その取り扱いを間違えれば、大きなリスクを背負ういうことも心して注意すべきだ。
(文=編集部)

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