些細なことで怒りを表す「易怒性」に注意を
2014年12月、国立長寿医療研究センターなどによる研究チームが「全国の救急告示病院を対象とした認知症の人の身体疾患に対する医療に関する調査」(平成25年度長寿医療研究開発費)を発表した。有効回答の内94%の病院が、認知症の人について「身体救急疾患への対応が困難」と回答した。
回答には「身体を抑制する」「薬物による鎮静」といった対応を余儀なくされるケースもあった。これは"怒りっぽい"という高齢者の特性も影響している。
「年を取ると人間丸くなる」はずなのに、どうして怒りっぽくなるのか。これは、老化に伴い自己抑制力や理性が低下し、そのときの気分や感情がそのまま表れやすくなるためだ。その人の"人間性が露呈される"ともいえる。
元来激しい気性の持ち主は、特に注意が必要だ。現役のときは理性によってうまくカバーできても、年を取るとそのベールがはがれやすくなってしまうものだ。
怒りの原因はさまざまだが、加齢とともに身体的な面や社会生活において物事が思い通りに運びにくくなり、ジレンマや憤りを感じてしまう。この点について、周囲は考慮してあげるべきだろう。
誰しも、できるならば怒りっぽい老後を迎えたくはない。脳の老化に伴う自然現象なのだから仕方がないと諦め、若いうちにのんきでゆったりした思考を持つことで防げればいいのだが......。
これまで見たことがない変貌に驚く周囲
ただし、元来が穏和な人でも人が変わったように怒りっぽくなる場合がある。イライラしたりカッとなったりするだけでなく、暴言や暴力などの攻撃性を伴うこともある。
以前の人柄を知る家族や知人は、「人格者の父だったのに」「上品で優しい母だったのに」と、少なからずショックを受けるものだ。そして、口々に「こんな姿、これまで見たことない」と言う。
これは「易怒性(いどせい)」という、れっきとした認知症の症状だ。些細なことで、すぐに怒りを表す。まるで別人のような「人格変化」が見られることもある。記憶障害や見当識障害よりもこれらの症状が先行する場合、もの忘れも少なく日常生活も保たれるので、すぐには認知症と認識されにくい。
特に毎日接している家族などは、日々の症状進行に慣れてしまい、その顕著な変化に気づかないかもしれない。「こんな姿はこれまで見たことない」という思いが脳裏をかすめたら、あるいは誰かにそう指摘されたら、認知症を疑ってみるといいだろう。
認知症にもさまざまなタイプがあるが、「ピック病(前頭側頭葉変性症)」は、こうした易怒性や人格障害が大きな特徴だ。発症率は比較的低いが、症状の激しさから周囲の人の対応は困難になる。
もし、高齢になってから大声で暴言を吐いたり、暴れたり、物を投げつけたりする身内がいるなら、専門医の診断を仰いでみよう。大脳の中の前頭葉(感情抑制や人としての言動に関わる)や側頭葉(感覚機能に関わる)の萎縮が診断の決め手の一つだ。
前頭葉の萎縮は、怒りっぽい言動のほかに奇妙な行動(万引き・収集など)、性格変化(おしゃべり・非協力的など)へと影響する。顔つきも大きく変わり、以前の面影がなくなる。
これらの変化は全て病気の症状だと捉え、以前の望ましい姿を懐古するよりも、今の姿にいかに向き合い、どう対応するかを、周囲は心がけるといい。
声のかけ方や接し方などの環境調整のほかに、気持ちを鎮める薬が効果的な場合もある。ただし、ピック病は薬への過敏性という特徴もあり、症状緩和が難しい側面がある。しっかりと専門医に相談して取り組むべきだ。
(文=編集部)