映画『おみおくりの作法』〜孤独死と向き合うことで新たな人生に出会う

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『おみおくりの作法』 2013年/イギリス・イタリア/91分/カラー 原題:STILL LIFE 監督・脚本・製作:ウベルト・パゾリーニ 出演:エディ・マーサン、ジョアンヌ・フロガット、アンドリュー・バカン 提供:ビターズ・エンド、サードストリート 配給・宣伝:ビターズ・エンド © Exponential (Still Life) Limited 2012 公式サイト:http://bitters.co.jp/omiokuri/ 2015年1月24日(土)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー

 独居者が誰にも看取られずに亡くなる孤独死。人と人とのつながりが希薄になった今日では、死後数日たってから発見されるケースもあり、日本をはじめとする先進国で社会問題となっている。

心を込めて死者の旅立ちを見届ける

 本作の主人公ジョン・メイ(エディ・マーサン)は、そんな孤独死を遂げた人々の葬儀を手配するロンドンの民生係だ。彼は人の死を事務的に処理することなく、死者の心に寄り添いながら、その家族や知り合いを探し出す。44歳独身、一人暮らし。几帳面な性格で、毎日同じ服を着て定時に職場に通い、昼食も夕食も同じメニュー。夕食後には弔った人の写真をアルバムに収めるという、規則正しい生活を送っている。

 残念ながらコストパフォーマンス重視の社会では、彼のように死者とじっくり向き合う仕事のやり方は"非効率的"と決めつけられてしまう。そのためか、ある日、彼は解雇を言い渡される。最後の仕事は自室の向かいの部屋で亡くなった男性を弔うことだ。いつも以上に熱心に取り組み、男性の身寄りを探してイギリス中を渡り歩くジョン・メイ。そこで出会った人たち、なかでも男性の娘ケリー(ジョアンヌ・フロガット)の存在が、彼の人生を変えていく。

 ジョン・メイの"おみおくりの作法"は、故人の写真を見つけ、その宗教を探し、その人に合った弔辞を書き、葬儀にふさわしい音楽を選ぶこと。そして知人を探して葬儀に招待すること。多くの場合、葬儀に出席する人はいないが、彼だけは参列する。その仕事ぶりは美しく、プロフェッショナル。魂が安らかに旅立てるように努力する彼は、誠実さと熱心さを合わせ持つ、地味で真面目なヒーローなのだ。

多くの人が孤独死予備軍に

 物語は淡々と時折ユーモアを交えながら進んでいくが、一筋縄ではいかない展開に戸惑いを覚えるかもしれない。人生は誰にもわからない。だが、ジョン・メイのそれまでの生き様が布石となるラストシーンは、温かく優しい感情を呼び起こしてくれるだろう。

 監督は、巨匠ルキノ・ヴィスコンティを大叔父に持つウベルト・パゾリーニ。孤独死を扱うジョン・メイを通して、"生きること"の意味を問いかける。何とも英国らしい上品さが漂い、静謐な余韻が残る作品だが、監督によると小津安二郎の晩年の映画を視覚的に参考にしたという。

 孤独死をする人の背景は、人付き合いに辟易し世間との縁を断ってきた人や、具合が悪くなったのに助けを呼ぶことができなかった人などさまざまだ。年齢層も限定的ではないが、やはり高齢者が目立つ。

 孤独死の増加の原因としては、単独世帯の増加、地域社会とのつながりの欠如や貧困などが挙げられる。また、2013年の都内の孤独死者は約4500人。また、65歳以上の一人暮らし高齢者は2015年に全国で600万人(21人に1人)までに増えると予測されている。いまや多くの人が孤独死予備軍だ。

 日本では高齢者の社会的孤立を防ぐために、自治体やNPO団体、企業が独自の対策を実施している。なかには医療系大学と連携して学生や職員を高齢者の多い団地に住まわせたり、テクノロジーを駆使した見守りサービスを行ったりしている組織もある。だがやはり、どんなシステムを構築しても、ベースとなるのは社会的に弱い立場にいる人々に関心を向けることではないだろうか。

「思いやりなんてきれいごとに過ぎない」「孤独死のなにが悪いのか」という考えも、理解できないわけではない。だが、この『おみおくりの作法』は、多くの人に他人への思いやりの大切さを気づかせてくれるはずだ。私たちの住む世界の何割かは人間の善意でできているのだから。
(文=編集部)

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