映画『パーソナル・ソング』~音楽が人生を取り戻す~認知症治療に見えた一筋の光明

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『パーソナル・ソング』© ALIVE INSIDE LLC 2014  2014年/アメリカ/カラー/78分 原題:Alive Inside 監督・脚本・製作:マイケル・ロサト=ベネット 音楽:イタール・シュール 出演:ダン・コーエン、オリバー・サックス、ボビー・マクファーリン  提供:メダリオンメディア 配給・宣伝:アンプラグド 公式サイト:http://personal-song.com/ 12月6日(土)よりシアターイメージフォーラム他順次公開

 認知症を患う人は、現在アメリカに500万人、日本には400万人いるといわれる。認知症は病名ではなく、脳の記憶力や判断力を司る部分に障害が起こり、日常生活に支障が出る状態を指す。いまのところ特効薬はなく、病院では抗認知症薬や向精神薬が処方されている。また、介護施設にいる認知症の入居者も、厳しい管理下で薬を投与され、気力と表情を失い、外界と隔絶されることが多いという。

 ドキュメンタリー作品『パーソナル・ソング』は、認知症の人々に対する音楽療法の普及に努める男性と、そのおかげで希望を見出した人々を追う。

思い出の曲が奇跡を引き起こす

 本作のキーマンは、IT業界出身のソーシャル・ワーカー、ダン・コーエン。彼は「認知症の人がiPodを使って思い入れのある歌(パーソナル・ソング)を聞けば、音楽とともに昔の記憶を思い出すのではないか」ということを思いつき、いくつかの施設でこの独自の音楽療法を開始する。

 画面に登場するのは、認知症の高齢者をはじめ、躁うつ病、多発性硬化症、初期アルツハイマーなどさまざまな病気を抱える人々だ。驚くことに、誰もが皆お気に入りの1曲-ルイ・アームストロング、キャブ・キャロウェイ、シュレルズ、ビーチ・ボーイズ、ビートルズ......-を聴いた途端、目に光が宿る。しっかりとした声で歌い出したり、サルサを踊り出したり、闇に沈んでいた記憶が戻ったり。まさに覚醒の瞬間だ。失われた人生を取り戻した彼らの中で、何かがはじける。

 なかでも印象的なのは、「ほとんど会話せず抜け殻のよう」だった認知症のジョン。大戦中に徴兵され、終戦後は舞台に出演し、歌や踊りを披露していた。だが、いまはそれらを全く覚えていない。そんな彼がヘッドホンをつけ当時の曲を聴くや否や、自然と体が動き出し、車椅子に座りながらもプロの足さばきでステップを踏み始める。頭が覚えていなくても体は忘れていないのだろう。さらに彼は感情を噴出させ、涙を流しながら、周囲の人への愛を口にする。

『レナードの朝』の原作者でもある神経学者オリバー・サックスは、「音楽を記憶したり、音楽に反応したりする脳の領域は認知症によるダメージが比較的少ない」「音楽は感情に訴えるもの。脳のさまざまな部分に届き記憶を呼び戻す」と解説する。思い入れのある曲が症状を改善する理由はここにある。 

"1000ドルの薬より、1曲の音楽を"

 ダンの音楽療法の効果を目の当たりにした人なら誰もが、本作のこのキャッチフレーズに賛同するはずだ。彼はいくつかの施設にiPodの導入を打診するが良い返事はもらえず、寄付を依頼してもなかなか集まらない。老年科医のビル・トーマスは、「高価な薬を投与するより、40ドルのiPodを提供するほうが難しい。薬はビジネスになっているが、音楽は医療行為として見なされていないからだ」と医療システムへの不満を口にする。「薬や栄養だけでは彼らの心の深みまでは満たせない」という彼の言葉はあまりにも重い。

 少々残念なのは、ここでは音楽に反応しなかった人、効果が出なかった人々が紹介されていないことだ。「音楽を聴いた人のうち、何人ぐらいに効果が見られたのか」「それはどの程度のものだったのか」について言及があれば、よりリアリティが増したかもしれない。

 徐々に活動の成果が実り始め、現在アメリカでは650もの施設でダンの音楽療法が取り入れられている。一方日本では、認知症の音楽療法は行われているものの、集団による歌唱療法がほとんどだという。この作品をきっかけに、日本でも個人音楽療法の普及・定着を期待したい。

 それにしても、自分を取り戻した人々のとびきりの笑顔と嬉し涙は、何よりも輝いている。
(文=編集部)

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