「昭和残侠伝 唐獅子牡丹」(東映東京作品、昭和41年)
国民的人気俳優高倉健さんが悪性リンパ腫により11月10日都内の病院で亡くなっていたと報じられた。所属事務所の高倉プロモーションから各メディアに送付されたFAXでは、「映画俳優 高倉健は、次回作準備中、体調不良により入院、治療を続けておりましたが、容体急変にて11月10日午前3:49都内の病院にて旅立ちました。生ききった安らかな笑顔でございました。」と記されていた。
プライバシーを明かすことを極端に嫌いなことで有名だった高倉さんだけに、どのような闘病生活がそこになったのかは定かではないが、ある程度納得のいく終わり方であったのではないだろうか。
そもそも悪性リンパ腫とはどんな病気なのかというと、血液がんの一つで、体内に存在するリンパ系組織で起こるがんで、リンパ節の腫大を主な症状とするが、脾臓や骨髄、胃などの消化管や他の臓器といったリンパ節以外の組織に浸潤をきたすこともある。
このリンパ系組織とは、全身に広がる細い管であるリンパ管とリンパ節で成り立っている。よく知られているのはわきの下や頚部、鼠径部(足のつけ根)などだが、脾臓や胸腺(胸骨の裏側にある組織)と扁桃もリンパ系組織の一部だ。
●ひと口に悪性リンパ腫といってもその種類は約50タイプ
悪性リンパ腫はその組織の違いにより大きくホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫とに分けられる。日本人の悪性リンパ腫では、ホジキンリンパ腫は約10%と少なく、大半が非ホジキンリンパ腫だ。ホジキンリンパ腫はさらに4型に分けられる。非ホジキン・リンパ腫もさらに10種類以上に細分化され、その症状は緩やかに進展するものから急速に進展し、急性白血病と同様の症状をきたすものまで極めて多種多様だ。国際的に用いられるWHO分類ではリンパ腫細胞の性質や発生部位などで約50種類のタイプに分類される。
悪性リンパ腫などの血液のがんは、診断される時期に全身に広がっている場合が多いため、他のがんのように手術が初期治療の選択肢とはならず、化学療法(抗がん剤治療)や放射線治療が行われる。悪性リンパ腫の多くがこうした治療の効果が大きいため、治癒や長期間の病状コントロールが期待できる。緩やかに進行する悪性リンパ腫の場合には、そのまま治療をせずに経過観察をすることもある。
化学療法はホジキンリンパ腫と非ホジキン・リンパ腫とで多少異なるが、現時点では、ホジキンリンパ腫ではABVDと呼ばれる4種類の抗がん剤の併用療法が、また非ホジキン・リンパ腫では、CHOPと呼ばれる4種類の抗がん剤の併用療法、さらには5種類の抗がん剤によるR-CHOP療法などが行われる。このほかにも自分の末梢血幹細胞を保存し、それを用いて移植を行う自家末梢血幹細胞移植等も行われることもある。
高倉健さんがどの悪性リンパ腫であったかは明らかにされていないが、実はこの悪性リンパ腫は年々増加傾向にあるのだ。がん登録の体制が整っているアメリカでは過去30年間で50%以上の増加率になっており、10万人当たり年間約20例の新規リンパ腫患者が発生している。こうした新規のリンパ腫患者の半数以上が60歳を越える高齢者で、最も頻度が高いのが、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫だという。
日本でも1年間に発生する悪性リンパ腫は約13000人で、やはり増加傾向にある。ホジキンリンパ腫が20~30歳代に多いのに対し、非ホジキンリンパ腫の発生のピ-クは50~60歳代で、高齢者は合併症や臓器機能の低下、薬物の代謝や排泄が遅いことなどから慎重な治療が必要だ。特に高齢者の非ホジキンリンパ腫をどのように考えて治療するか高齢化が進む先進国では大きなテーマとなっているのだ。
しかし、一方では症状を軽減するための支持療法薬や、制吐剤、抗菌約などの開発が進み、抗体薬も飛躍的に進歩してきた。高倉健さんのような80歳以上の超高齢者でも、治療成績は大きく改善されつつある。
「往く道は精進にして、忍びて終わり悔いなし」。座右の銘どおり83歳の命を全うした高倉健さん。
合掌。
(文=編集部)