退院基準での確認作業は行われていない!
コロナに感染して10日が経過して自覚症状がなければ保健所から「就業制限解除通知書」なるものが発行されて、仕事に復帰でしてもいいということになっていることをご存じだろうか。しかし、職場の上司から心配なのでもう一度保険でPCR検査をしてもらうように言われたといって再診される方が後を絶たない。
コロナが治った後に確認のためにとPCR検査をしてはいけない理由
入院患者さんに関しては退院時に2回のPCR検査をして陰性であることを確認してから退院するという「退院基準」があったが、実は今ではPCR検査での確認作業は行われていない。それはなぜかというとPCR検査は症状が軽快して1-2か月してからも陽性になることがあってきりがないからである。
(参考グラフはこちらを参照して下さい。「Fast coronavirus tests: what they can and can’t do」:nature online> news feature: https://www.nature.com/articles/d41586-020-02661-2 )。クルーズ船のとき
でもPCR陰性を待って2か月近く入院していた例があったほか、無症状や軽症の発症者ですら1か月以上PCR陽性が続いた例が報告されている。つまり、就職制限が解除されてすぐの発症11日目あたりでPCR検査をしたら高率にPCR陽性とでてしまうのだが、この事実を国や地方自治体がきちんと周知していないために現場での混乱を招いている。したがって治癒後に保険を使ってPCR検査をすることも認められていないのである。
ここで問題なのはそれならPCRで陽性に出るような人が本当に職場復帰していいのかという疑問である。これに関しては世界中の報告からも「発症後10日を過ぎると人へ感染させにくくなる」という事実がわかってきたために10日目を区切りとして自粛解除という基準が作られたと思われる。しかし、それはあくまで自粛解除基準であって治癒基準ではなく、何時の時点をもって治癒とするかは難しい問題で、いまのところ議論もされずに棚上げされている。ところで医療機関で再検査を拒んでも今は自費でPCR検査が受けられてしまうので、そこで陽性に出るとその後の対応がややこしいことになってしまう。今後はこのようなケースが増えてくるので、しっかり行政がこの辺の対応を国民に周知すべきだ。
ちなみに前回私が書いたMRIC記事(「Vol.240 いまや意味のない濃厚接触者認定を漫然と続けていることの弊害」:http://medg.jp/mt/?p=9988 )の中で、当院を受診したプロの音楽家の例をご紹介したが、その後の後日談があるのでご紹介したい。某市主催のライブコンサートに出演するにあたり主催者の市担当者から出演者全員のPCR検査実施を求められた。この音楽家の人は11月にコロナに罹患してからちょうど2か月目なのだが、やはりPCR検査で陽性という結果が出てしまった。仕方なく「活動性の状態ではない」という診断書を書いて事なきをえたが、管轄の保健所医師に連絡して協議するなどそれは大変な作業となった。