陰性反応の濃厚接触者も14日間自粛は妥当か?
例えば5人家族で同居の大学生が感染したら、働き手の父親は14日間仕事に行けなくなり、小中学校に通う兄弟たちも14日間も学校に行けなくなる。実際このような事例がネット記事に報告されていて、自分が感染したために家族に迷惑をかけたと後悔している若者の感想が語られていた。
大したことではないように思われるが、実際当事者になると事の重要さを思い知らされる。前述の音楽家の方は感染者が暮らす伴侶のもとを離れて14日間ホテルに缶詰めになることになり、14日間の演奏予定の共演者と興行施設すべてに連絡を取って出演できないことを伝え、世間には突然の公演中止の周知を流すなど、それは大変な事態になった。感染者ならまだしも検査で陰性が確認された濃厚接触者に対してそこまでしなければならないのかとつくづく思い知らされた。
つまり奇妙なことに感染確定者よりも濃厚接触者のほうが自粛期間が長くなってしまっているのだ。感染者も当初は14日間の隔離後48時間開けて2回のPCR検査で陰性が確認されて初めて自粛解除とされていたのが、現在では自粛期間が10日に短縮されてPCR検査による確認も不要となっている。それにも拘わらず濃厚接触者の規定は改定されずにそのままのためにこのような逆転現象が起きている。
新興感染症が海外から入ってきた当初は、封じ込めをするためにネズミ一匹を逃さないような徹底した感染対策が求められ、感染疑いのひとを含めて厳しい隔離政策とる必要がある。クラスターの追跡という日本がとり続けている対策がそれで、濃厚接触者という概念を定義して、法律(感染症法の指定感染症2類相当)にのっとって検査と隔離を徹底する。しかし現在のようにウイルスが日本中に蔓延して感染者自体ですら検査が受けられずにいるひとがあふれかえっている状況の中で、濃厚接触者だけを厳しく規制するのは全く時勢にそぐわないのは明らかだ。それにも拘わらず国はその根拠となっている指定感染症の内容を変更せずに継続すると決定した。
濃厚接触者の定義さえちぐはぐでバラバラ
ところで濃厚接触者に関してはもう一つ大きな問題が起きている。それは感染者と明らかに接触している事実があるのに濃厚接触者に認定してもらえず、行政検査(法律にのっとって行う検査)という無料のPCR検査を受けさせてもらえない人たちがいっぱいいることだ。例えば前述のコロナ陽性の音楽家の方は伴侶の演奏会後の会食時に対面で話をした人がいたが、伴侶以外に濃厚接触者はいないと判定された。
どうしてこのようなことが起きているかというと、濃厚接触者の定義を変更してよほどの強い接触がない限り濃厚接触者には該当しないように改変したためだ。
(濃厚接触と判断する目安を「2メートル以内の接触」から「1メートル以内かつ15分以上の接触」に変更)。
さらに「行政が行う積極的疫学調査における対応については自治体ごとの判断に委ねる」としているので、自治体によってはマスクをしていれば接触とみなさないとして濃厚接触者に認定しない場合もある。その結果、感染者のそばに寄って話をした人でもほとんどが濃厚接触者の認定をうけない事態になっている。
感染研の説明でも「感染しないことを保証する条件ではない」としている通り、濃厚接触者に認定されなくても感染している可能性は大いにある。となると、何のための濃厚接触者の定義なのか、この定義でクラスター追跡をする対象を線引きして減らしてしまっては、すべての感染疑いの人を封じ込める対策にはもはやなっていない。つまり、クラスター追跡というのはすでに形骸化してしまっているのだ。それにもかかわらず濃厚接触者と認定した人にだけ14日間の隔離を義務付けるのは全く行き過ぎで、ただただ法律に従うための意味しかない。
ひどいことには感染が急激に拡大している大阪では、濃厚接触者が1週間経ってもPCR検査をしてもらえない状況にあるとの報道があった。となると濃厚接触者の定義を変更したことはPCR検査の対象者を減らすため、もしくは保健所追跡調査の作業を軽減するための措置と疑われても仕方がない。
速やかに法律を改正してクラスター追跡をやめるか、せめて濃厚接触者だけに課している厳しい隔離措置は軽減すべきだ。繰り返しのPCR検査で陰性ならそれでいいはずで、法律の縛りがなくなれば検査も指定検査機関(都道府県と契約を結んだ診療所など)でなくてもいいことになる。国政にかかわる人の英断を期待したい。
(文=和田眞紀夫)
和田眞紀夫(わだ・まきお)
わだ内科クリニック院長
※医療バナンス学会発行「MRIC」2020年12月1日より転載(http://medg.jp/mt/)