シリーズ「本能で楽しむ医療ドラマ主義宣言!」 第25回

2020 春の医療ドラマは盛沢山、あなたはどの番組を見るべき?

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がん患者さんの切実さから多くのことを学ぶ日々の診療

 同じ、生死にかかわる難しい問題も取り上げていた『病室で念仏を唱えないでください』(金曜よる 10 時)では、「あることが難しい」と書いて、ありがたいと読むのだという言葉が出てきていました。がんに限らず病気になったりお事故に遭遇したりすると、健康でいること、忙しいと文句を言いながら仕事をできることが、どれほど有難いことであるかを気づかされます。

 開業医の私も、日々の外来の中で様々なドラマを目の当たりにします。

 以前、末期がんを患った患者さんから、「必ずその日は来るのよ」と言われたことがあります。まだまだ先だなと思っていた運動会も、卒業式もみんなきちんと来たでしょ?だからまだまだと思っても、最期の日は必ずやってくるのよ、と。毎日の治療で、心も体も疲れていることもあるはずなのに、抗がん剤の副作用があるのは、抗がん剤が効いている証拠だね、と話しながら、すべてをポジティブにとらえ身の回りの喜びを沢山見つけて感謝している患者さんには、ハッとさせられ、いつもたくさんのことを教えていただきます。

「まだ死にたくない!」と言っていた 80 代のおじいちゃまが、「また来週来るね」と帰宅。その後、自宅のトイレで吐血。そのまま窒息死してしまい、警察から連絡をいただいたこともありました。トイレで苦しかったその時、その方は何を考えたのだろう。

 20 代前半から、医師という仕事を通じながら、少なからず生死を身近に感じて生きていた私自身も、30 代で腫瘍摘出という経験をし、様々な患者さんから言われた言葉をしみじみとかみしめるようになりました。毎日、年を重ね、明日が来ることが実は当たり前のことではないと思い知り、「イマココ」 をモットーに暮らすようになりました。

未解明な部分が多い頭部の疾患に挑む脳外科医たち

 さてさて、脳外科医の世界を描く『トップナイフ』(土曜よる 10 時)。第2回が終わりました。
 
 率直に、脳の病気を神秘的に描こうとするのは難しいですね。確かに脳や神経系は解明しきれていない神秘的な臓器ですが、人間の身体の構造や動きもまだまだ解明できていないことだらけのように思っている私には、若干、ドラマで脳外科を語る上でのこじつけっぽいじ感じ?がしたりしてしまいました。

 第 2 回にあった痛みを訴える患者の苦しみが、診断がつかないがために精神的な痛みとされてしまう難しさにはとても共感しました。痛みは認知と深い関係がありますので、原因診断自体も時に非常に難しいのです。腰痛ひとつにしても、脳が痛みを感じる構造も理解して診ないと治療がうまくいかないことが多々あります。

 今回は小さい髄膜腫が犯人でしたが、痛みのマリグナントサイクルに入った患者が自殺を繰り返す、という描写と、それを理論的に考え診断に導いた西郡琢磨(永山絢斗)は良い感じでした。まあ、西郡には痛みに関係するなにかを抱えているから…という感じはきちんと伝わってきました。それにしても、あんな生意気な後輩君がいたら、嫌だなあ~。

 そして、このドラマにどこかしら昭和感を感じているのは私だけでしょうか。昭和を知らない世代は説明するのは難しいのですが、天海祐希の役柄の感じなのか、意外と広瀬アリスの演技が昭和感?

先が見えないからこそ期待させる医師&僧侶の異色キャラ

『病室で念仏を唱えないでください』は、一番私が楽しみにしていた医療ドラマでした。案外落としどころがまだ見えないので、話の展開に興味を持ってしまう感じが良いですね。私の出身大学はクリスチャンでしたので、看護師が讃美歌をうたい、神父様が院内を闊歩しておられましたが、確かに僧侶があの格好で院内でお経をあげていたら…。自分を落ち着けるために唱えているのか、患者さんの魂のために唱えているのかすら一般人にはわかりません。合唱の手をずらす、金剛合掌は硬く強い意志を表していることだけ分かりました!

 医師としての能力も高く、働き者、感情豊かでピュアな松本照円(伊藤英明)が女好きという人間っぽさを、健康的に描いてくれることを願います…。

 海外医療ドラマを見つくしている私は、今年の春の医療ドラマラッシュをきっかけに今更ながら『ドクターX』を見始めています。シーズンが続くだけあって痛快で面白い。「私失敗しないので」よりも「致しません」というフレーズにビビット来てしまった私は、つい日常でも連発しています。
開業医をしていると、純粋に患者さんのことを考えて臨床に没頭することが難しく、納得のいかないレセプト作業や、病院経営のための雑務、営業、医療器具の仕入れなど医師免許がなくてもできることにかなりの時間を費やさないといけないのです。

「医師免許がなくてもできることはいたしません!」と言えたらどれだけすっきりするであろうに。

 春の医療ドラマの定点観測報告はこの後も続きます。(文=井上留美子)

2020 春の医療ドラマは盛沢山、あなたはどの番組を見るべき?の画像2


井上留美子(いのうえ・るみこ)
松浦整形外科院長
東京生まれの東京育ち。医科大学卒業・研修後、整形外科学教室入局。長男出産をきっかけに父のクリニックの院長となる。自他共に認める医療ドラマフリーク。日本整形外科学会整形外科認定医、リハビリ認定医、リウマチ認定医、スポーツ認定医。
自分の健康法は笑うこと。現在、予防医学としてのヨガに着目し、ヨガインストラクターに整形外科理論などを教えている。シニアヨガプログラムも作成し、自身のクリニックと都内整形外科クリニックでヨガ教室を開いてい。現在は二人の子育てをしながら時間を見つけては医療ドラマウォッチャーに変身し、joynet(ジョイネット)などでも多彩なコラムを執筆する。

シリーズ「本能で楽しむ医療ドラマ主義宣言!」 バックナンバー

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