「あなたのクスリ、本当に必要ですか?」~避けたいポリファーマシー(多剤処方)

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こんなにたくさんの飲み薬本当に必要?

「先生、私もいくつかの科を通院していますし薬もたくさんに増えてきましたよ。でもこんなにたくさんの薬、ずっと必要なのでしょうか?」
これはある日の診察室、かかりつけの内科医である私が70代の男性患者さんから尋ねられた質問である。そこで主治医である私はこう答えた。
「では内科から処方されている薬のうちいくつかをお休みする方向で考えましょうか。」
すると患者は一瞬意外なことを言われたような表情を見せて言葉を続ける。
「しかし長年服用してきた薬をやめてどこか体調が悪くなるのも不安ですし…」

 長年続けてきた服用習慣を変えることでせっかく今体調が落ちついているのにどこか悪化しやしないか、と考えるのはごく自然なことであろう。最終的に患者さんと相談の結果、過去に開始となっていた胃薬と降圧剤をお休みすることにした。胃薬は抗血小板剤(いわゆる血をさらさらにする薬)と一緒に予防的に投与されていたものである。この患者に胃や十二指腸の疾患が特になかったこと、定期的に胃カメラなどを受けていることから中止は可能と判断した。また降圧剤は最近やや血圧が低めなこともあることなどから複数ある降圧剤のうちの一つは中止可能と判断した。

 薬を開始する、中止するのはあくまでも主治医の判断でありその裁量権、そして責任を有する。個々の患者に応じて様々な基礎疾患を考えて「総合的に」判断する訳であるが、それでも最近は海外で不必要な薬を定める基準がまとまり(STOOP/STARTクライテリア)日本の学会でも主に高齢者を対象に慎重に投与すべき薬のリストをまとめるなどの動きがみられている。医師達の間でも薬が多すぎる(時に必要な薬が使われていない)などという意識が以前より浸透してきている。

ポリファーマシーとは

 ここでポリファーマシーという言葉を聞いたことがあるだろうか?最近メディアでも時に耳にするこの言葉であるが、「多剤処方」つまり医療機関から多数の薬剤を処方されることである。厳密に何剤以上が必ずポリファーマシーと言える訳ではないが、概ね5-6剤以上の処方薬があればポリファーマシーと言える。

 では5-6剤以上の薬が処方されていれば、それは全て良くないことであろうか? 私も糖尿病を中心とした生活習慣病の外来を担当しているが、冒頭で紹介した患者のように5-6種類以上の薬を処方していることも多々ある。特に年齢が高齢となってくると多数の疾患を有するし、また糖尿病が進行して発症した合併症に対してまた処方薬が追加される。

 問題なのは必要のない薬やさらには使ってはならない薬が含まれている場合である。使ってはならない薬が処方されることは多くないことを信じたいが、必要のない薬が処方されるケースは多々あると思われる。

なぜ起きる、ポリファーマシー

 ではポリファーマシーはなぜ起きるのだろうか。その原因として考えられることとして長年、多数の疾患に対して薬が増える一方で減らされることがなかった、ある薬による副作用に対して(その副作用による症状を薬によるものと認識されずに)別の薬が処方される、複数の医療機関から同じ系統の薬が処方される、などが考えられる。

 病院の薬は全て医師から処方されるものであり我々医師は自らが処方する薬が患者さんの不利益となっていないかその都度考えなければならない。ただ同時に患者側も自らの身体のことであり医師に一任するのではなく医師とともに考え、医師を「ガイド役」として上手く利用していただきたい。

 多くの疾患を抱えていればどうしても不調が多くなるのは理解できるが、ちょっと医師に伝えておきたい症状にも薬が処方されることはあるので、そこまでの症状でなければ「投薬は不要である」と明確に述べること。なかなか訴えにくいこともあるが、新たに生じた症状を新しく始まった薬の影響でないかと考えてみること。日頃から薬局との連携も密にして自分の使っている薬に関心を持つこと。などに注意していただきたい。

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