赤ちゃんのスキンケアのポイントとは?
慢性的にくり返す激しいかゆみと皮膚炎に悩まされる「アトピー性皮膚炎」。我慢できずかけば、さらに肌のかゆみが増し、安眠を妨げて日中の集中力が続かず、体は常にだるい。かきむしった肌が見た目を損ない、外出をためらう生活に――。
今、アトピーに悩まされている日本人が増えている。アトピーの発病率は上昇傾向にあり、平成30年はアトピーになった中高生がこれまでの最大を記録した(平成30年度学校保健統計調査より)。
アトピーに悩む人の多くは、症状が再発したり、肌のいい状態を長く保てなかったりという悩みを抱えている。肌のバリア機能が低下しているため、わずかな刺激や乾燥などで、肌のコンディションが崩れやすいからだ。
そのバリア機能を高めるとされるのが、肌の内側でつくられるタンパク質の「フィラグリン」。天然の保湿成分にもなるフィラグリンが、肌の内側から「角質細胞層(角質層、角層)」を強化し、乾燥から守るバリア機能として大きく働く。このフィラグリンの産生を促すと、肌自身が本来持っている潤いを高めて維持する力がアップするのだ。
フィラグリンが不足した皮膚は角層が薄く、フィラグリンの産生が促進された皮膚は、表皮の最も外側の角層の厚みが増すこと1)や、フィラグリン不足だけでアトピー性皮膚炎が生じるという研究結果2)も発表されている。また、フィラグリンが活発に産生されると、保湿剤などによるスキンケアの相乗効果も高めるといわれている。
1)日本皮膚科学会 『The Journal of Dermatology』(2015年)
2)『Journal of Allergy and Clinical Immunology』(2017年11月付)
スキンケアで注目される0歳からの乾燥対策
近年注目されているのが、「アレルギー・マーチ」という現象だ。乳幼児期のアトピー性皮膚炎に始まって、食物アレルギー、小児ぜんそく、鼻炎……成長するにつれて異なるアレルギー疾患が発症するというもの。
「わかばひふ科クリニック」の院長を務める野﨑誠医師は、「アトピーを繰り返さない肌には、0歳からのスキンケアが必須です」とアドバイスする。野﨑医師は、クリニック開設から延べ1万1000件、約2000人の0歳児の肌を診てきたスキンケアのエキスパートだ。
野﨑医師は、「赤ちゃんの肌は『もちもち』ではない」と断言し、肌のトラブルが起こりやすい理由をこう説明する。
「皮膚の厚さは、大人でもラップ1枚分。赤ちゃんはその半分しかありません。また、肌の表面には皮脂がほとんどつくられないので、肌の内側の角質層にある水分やセラミドなどの保湿物質も大人に比べてとても少なく、乾燥しやすいのです。そのため、アレルギー物質や刺激の影響を受けてトラブルが起きやすくなります」
肌のバリア機能が整っていない子どもは、外部の刺激にさらされている。「アレルギー・マーチ」のように、乳幼児期の肌トラブルがきっかけで、トラブルを抱えた肌となることもある。その一方で、正しいスキンケアによって一生ものの健やかな肌を獲得できる可能性があるのだ。
さまざまな商品や情報が氾濫する中、肌トラブルに悩む、子どもやその保護者は少なくない。そこで野﨑医師が、乳幼児期のスキンケアのポイントをアドバイスしてくれた。ちなみに大人のスキンケアにも共通する点は多い。親子で実践しよう。
赤ちゃんの肌を守るポイントとは?
●保湿剤を塗るタイミングは、風呂上がりがベスト
・ただし、お風呂から上がった後、少し時間をあけて、ゆっくりと全身に行う。赤ちゃんは入浴中に大量の汗をかくので、入浴直後に保湿剤を塗ると、むしろ汗疹(あせも)ができることがある。
・一般的に、保湿剤はベビーローションやクリームなどがお勧め。赤ちゃんは汗っかきなので、汗疹対策も兼ねてローションの方がよい。
・赤ちゃんの肌は敏感。保湿剤は、添加物の少ない低刺激のものが理想的だ。
・塗る順番は、顔からそのまま下に向かってゆっくりと。乾燥しやすい部分だけでなく、おしゃべりしながら全身に塗ってあげれば、赤ちゃんとのコミュニケーションにもなる。
・擦りこむのは、摩擦で汗疹ができてしまうため厳禁。
・乾燥しやすい冬場は、水っぽい保湿剤より少しコッテリしたものに。回数も意識して多めに増やす。
●室温は25℃、湿度は50%を目安に
冬場に肌が乾燥する原因のひとつに挙げられるのが湿度。たとえば、東京の場合は1月がもっとも湿度が低い。1月は、平均湿度は54%だが17%まで下がる(2018年・気象庁)。湿度の低下は、皮膚のバリア機能の低下も招く。加湿器などをうまく活用し、乾燥肌を防ぎたい。
ただし、湿度が高すぎると汗をかきやすくなり湿疹の原因にもなる。50%程度に保とう。また、室温も高すぎると、赤ちゃんは汗をかきやすくなる。25℃程度に保つのがベストだ。
●生活習慣が乾燥肌を引き起こす場合も
食生活の習慣が、乾燥肌を引き起こす場合もある 。偏食などで栄養バランスが崩れると、皮膚の乾燥は悪化する。皮膚をつくるには、たくさんの栄養素が必要だが、中でもタンパク質は保湿には欠かせない。また、保護者の生活習慣の乱れは、間接的に赤ちゃんの皮膚の状態に悪影響を及ぼすから注意したい。十分な睡眠と栄養バランスのとれた食事を心がけよう。
スキンケアは通年が鉄則だ。赤ちゃんのスキンケアを素手で行えば、大人の指先の保湿にもつながる。忙しい日常の中でのスキンケアは、親子のスキンシップにもなる。フィラグリンの産生促進効果のあるスキンケア商品も登場しているから、試してみるのもよいだろう。
(文=編集部)
野﨑誠(のざきまこと)
2001年、山形大学医学部卒業、04年から国立成育医療研究センター皮膚科に勤務。13年3月より「わかばひふ科クリニック」(東京都武蔵野市) 院長。専門分野は小児皮膚科。特にアトピー性皮膚炎をはじめとする乳幼児の湿疹性病変、皮膚アレルギー性疾患、虫刺され、あざ・母斑および同症に対するレーザー治療。