アニサキス症の報告件数増加は氷山の一角
ところで、実は大幸薬品がこの特許を取得したのは2014年のこと。なぜ今さらニュースとして取り上げられたのか?
そこには近年、アニサキス症の報告患者数が大幅に増加したという事情が関わっているはずだ。
厚生労働省の集計によれば、10年前の2007年にはわずか6件だった患者数が、2017年には242件にまで増えた。
2012年の食品衛生法改正によって、アニサキス症の治療を保健所に報告することが義務付けられたことに加え、最近、渡辺直美などタレントがアニサキス症の体験を語り、衆目を集めたことで、アニサキス症の認知が高まったことも関与しているだろう。
だが、この報告患者数の増加は氷山の一角に過ぎず、発症数はさらに多数に上ると見られる。
国立感染症研究所がレセプト(医療機関が健康保険組合等に提出する診療報酬明細書)のデータを用いた試算を行った結果では、アニサキス症は年間に7000件超も発症していると推計されている。海外での報告数は、1960〜2005年の累計で、欧州で約500件、米国で約70件しかない。日本だけが突出して多いのだ。
「アニサキス症は、刺身や寿司などの食文化をもつ日本の特徴と言える。正確な情報をもとに、食品衛生の向上に努めることが重要」と入子准教授も語る。
消費者としても正しい知識を持ち、自身の健康を守るべきだ。そもそも特許を取得したからといって、正露丸にアニサキス症への効能が認められたわけではない。
医薬品がその効能をうたうためには、有効性と安全性について十分な基礎研究と臨床試験(治験)が行われ、厚生労働省の承認を得なくてはならない。基礎研究や臨床試験には莫大な費用がかかる。
正露丸の場合、すでに市販薬として広く認知されており、わざわざ費用をかけてアニサキス症への適応を承認されるメリットは少ない。特許の取得は、口コミで「アニサキスにも効く」と広まることを期待した程度のことだろう。
「アニサキス症に正露丸」はあくまでも自己責任での服用になる。仮になんらかの副作用が生じても、承認の適用外であるため、誰も責任は取ってくれない。その点はしっかりと頭に入れておくべきだろう。
(文=編集部)