日大アメフト問題〜スポーツで傷害罪は成立する?刑事司法は罪の有無を明確にすべき

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刑事司法の介入〜「福島県立大野病事件」との相違点

 2004年、福島県立大野病院で、出産時に癒着胎盤から大量出血があり、母親が死亡しました。医師が逮捕され、業務上過失致死罪で起訴されました。癒着胎盤は、極めて危険な産科合併症です。医師は、故意に害を及ぼそうとしたわけではなく、必死に母親を救うべく努力しました。

 残念ながら医療は安全ではありません。大野病院事件が議論になった頃、医療の内側と外側の区別が、議論されるようになりました。手術や合併症は医療の内側であり、どうすれば母親の生命を救えたのか、善悪の規範ではなく科学的に議論すべきはずのところ、警察・検察は「法規範で医師に罪がある」として、刑事罰を科そうとしました。医療の内側の問題に、司法が介入しようとして強い批判を浴びました。

 今回の事件は、パワーハラスメントで当該選手を追い込んで、相手のクオーターバックを負傷させようとしたものであることが、確定しつつあります。これが正しければ、明らかな故意犯罪です。スポーツの範囲外のことであり、刑事司法が介入すべき事件です。刑事司法が介入しなければ選手は安心してプレイできず、アメリカンフットボールは衰退するでしょう。社会への影響を考えると、刑事罰を科さない場合でも、刑事司法はその理由を示す責任があります。

 日大の学長は、第三者委員会で調査すると言明したものの、監督・コーチの説明を追認した形になっています。この後の、日大からの関学側への説明でも、学生への事情聴取をすることなく、監督・コーチの言い分を認めています。大学側の姿勢を見ると、大学が選任した第三者委員会が公平な立場で調査するのかどうか懸念されます。

 ここまでくると、日大の経営者が、事件の正当な解決を意図的に怠っていると見えてしまいます。問題を解決するのに、経営者の入れ替えが必要であることを、日大自身が時間をかけて、段階を踏んで、示しているように思えるほどです。日大経営者に責任を問うためにも、刑事司法の役割は大きいと言わざるを得ません。
(文=小松秀樹)


小松秀樹(こまつ・ひでき)
虎の門病院泌尿器科部長。東京大学医学部卒。都立駒込病院、山梨医科大学、虎の門病院泌尿器科部長等を経て、2010年から、亀田総合病院副院長・泌尿器科顧問。現在、千葉県や所属する医療法人などに対する批判をめぐり懲戒解雇問題が発生し係争中。

医療ガバナンス学会発行「MRIC」2018年5月29日より転載(http://medg.jp/mt/)

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