シリーズ「あの人はなぜ死に急いだのか?スターたちの死の真相!」第12回

堀江しのぶ「スキルス性胃がん」卵巣転移のため23歳で夭折した巨乳アイドルのさきがけ

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発見されにくい、進行が早い、転移しやすい、再発度が高い

 堀江をむざむざと天国に旅立たせた「スキルス性胃がん(Scirrhous gastric cancer)」を見よう。

 胃がんは、種々の原因によって胃壁の粘膜内に生じたがん細胞が無秩序に増殖するために発症する。発症すると、がん細胞は胃壁の中に入り、外側にある漿膜(しょうまく)を侵食し、やがて大腸や膵臓などに浸潤する。

 胃がんのがん細胞の組織型(細胞を顕微鏡で観察した外見)は「腺がん」が多い。がん細胞は、進行が緩やかな「分化型」と、増殖も進行も速い「未分化型」に分かれる。未分化型の典型がスキルス性胃がんだ。スキルスはギリシャ語の「skirrhos(硬い腫瘍)」の意味。スキルス性胃がんは、悪性腫瘍にみられる間質(血液、神経、膠原線維など)が多く、びまん性に(広範囲の拡散性を示して)浸潤する悪性度が著しく強いがんだ。

 つまりスキルス性胃がんは、ひと塊にならず、正常組織に染み渡るように浸潤するため、病変の表面が正常組織に覆われていたり、正常細胞が病変内に飛び石のように残る。したがって、進行すればするほど、がん細胞がびまん性に浸潤し、過度の線維化が起こるため、胃壁が厚く硬い革袋のように変質する。

 また、分化型と異なり、間質(血液、神経、膠原線維など)を破壊しながら増殖するので、上部消化管内視鏡で狭帯域光観察 (NBI) を行なっても、粘膜の表面に出現せず、病変が茶褐色に見えない(むしろ白色に見える)ことから発見が遅れやすい。

 また、進行が極めて早く、腹膜播種やリンパ節転移の頻度が高いため、治癒切除が困難になり、予後が極めて悪化する。腹膜播種は、がん細胞が臓器を超えて腹膜(胃、肝臓、膵臓、胆嚢、腸を覆う薄い半透明膜)に転移した状態だ。種が撒かれるように無秩序にバラバラと拡散するため、治療が困難を極める。

 どのような症状があるのか? 初期なら、胃の痛み・不快感・違和感、摂食障害、胸やけ、吐き気、食欲不振、体重減少などだが、自覚症状は弱い。がんの進行に伴い、上腹部の激痛や膨満感、貧血、血便・黒色便などの不快症状が現れる。

 原因は何か? 喫煙をはじめ、塩分の過剰摂取、βカロテン(野菜、果物)の摂取不足、ヘリコバクターピロリ菌の持続感染のほか、糖尿病や肥満などが発症リスクを高める。

 スキルス性胃がんは、胃がんの約10%を占め、女性(20~40代)の発症が多く、特に40歳代後半以降の罹患率が高い。国内では、東北地方の日本海側で高く、南九州、沖縄で低い「東高西低」型だ。

 スキルス性胃がんの検査法は、腫瘍マーカーを測定する血液検査、内視鏡検査のほか、X線やCTによってリンパ節・肝臓・腹膜・隣接臓器などへの転移を調べる画像検査、生検などがある。

 治療法はあるのか? 標準治療は、3分の2以上の胃切除とリンパ節郭清だが、早期に発見できれば、EMR、腹腔鏡下胃局所切除、開腹による胃切除になる。がんが進行し、転移や浸潤によって切除不能の場合は、放射線療法や化学療法を用いた後に、手術を検討する。また、出血や狭窄を改善するバイパス術や部分切除などの緩和医療を行う場合もある。

 このように、スキルス性胃がんは、発見されにくい、進行が早い、転移しやすい、再発度が高いがんだ。ステージ4なら、復帰は、まず困難だろう。

予防と早期の診断・治療の重要性に気づこう!

 堀江の死因は、がん細胞がびまん性に浸潤し、腹膜播種を招いた4ステージ4(5年生存率10%)のスキルス性胃がんだった。

 ステージは、壁深達度(T分類)、リンパ節への転移(N分類)、遠隔転移の有無(M分類)の組み合わせによって決まる。堀江のスキルス性胃がんは、壁深達度(T分類)が「がん細胞が直接、他臓器に及ぶ最も深達度が高い(重篤な)T4b(SI)」、リンパ節への転移(N分類)が「領域リンパ節に7個以上の転移があるN3」、遠隔転移の有無(M分類)が「領域リンパ節以外のリンパ節転移があるM1」だったことから、ステージ4の診断となった。

 このような発症の根拠と機序に基づけば、堀江を急襲したステージ4のスキルス性胃がんの克服・生還は、ほぼ不可能だった可能性が強いと結論するほかない。

 しかし、堀江の悲劇から学ぶべき教訓がある。スキルス性胃がんの手術後の「5年生存率」だ。 ステージ1A(95%)、ステージ1B(87%)、ステージ2(70%)、ステージ3(45%)、ステーゾ4(10%)。 ステージ0期や1期は、早期がんのため、内視鏡治療や狭い領域の手術で完治が望める。2期は、手術による予後が期待できる。3期は、状況は厳しいものの、完治の可能性はある。だが、ステージ4になれば、転移が広範囲に広がった末期がんなので、完治は、まず不可能になる。
 
 これらの事実を知れば、予防と早期の診断・治療の重要性が想起されるだろう。

 特別な予防法はない。日々の食生活、栄養のバランス、塩分抑制はもちろん、適度な運動・休養、たっぷりの睡眠を気づかうほかないだろう。とりわけ20~40代の女性は、健康管理に十分に配慮したい。

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