最大のリスク要因は喫煙!赤色や茶色の血尿が出る「膀胱がん」の恐怖
膀胱がんは、どのような症状を示すのか? 目で見て確認できるほどの赤色や茶色の「肉眼的血尿」が出る。肉眼的血尿は、最も頻度の高い膀胱がんの症状だが、痛みを伴わない。血のかたまりが出る場合もある。
頻尿、尿意の切迫感、排尿時痛、下腹部の痛みなどの膀胱刺激症状が出現する場合も少なくない。頻繁に尿意を感じる、排尿時に痛みがあるなど膀胱炎のような症状を示しやすい。その他、膀胱がんが広がり、尿管口が閉塞すると、尿の流れが妨げられため、尿管や腎盂が拡張する水腎症になり、背中の鈍痛(背部痛)を感じやすくなる。
膀胱がんは、症状が軽くても症状が出た時はすでに筋層浸潤性がんや転移性がんである場合もある。したがって、少しでも症状があれば早急に医療機関を受診しなければならない。
膀胱がんの罹患率は、7.2%(男性12.8%、女性2.8%)で、男性は女性よりも4倍も高い。男女とも60歳以降に増加し、40歳未満は低い。死亡率は2.1%(男性3.6%、女性1%)だ。
膀胱がんの最大の確定的なリスク要因は喫煙だ。男性の50%以上、女性の約30%の膀胱がんは、喫煙によって発症する。
そのほか、ナフチルアミン、ベンジジン、アミノビフェニルなどの危険物質の曝露、フェナセチン含有鎮痛剤、シクロフォスファミド、放射線治療による膀胱への被曝、不衛生な環境、ビルハルツ住血吸虫による感染症などがある。糖尿病の治療との関連性も強い(参考:国立がん研究センターがん情報センター)http://ganjoho.jp/public/cancer/bladder/index.html
松田の死因を推察すれば、どうなるだろうか?
このような根拠から、松田の死因を推察すれば、どうなるだろうか?
表在性がんは、放置すれば、転移するリスクがある。膀胱の筋層に浸潤する筋層浸潤性がんは、膀胱壁を貫き、壁外の組織へ浸潤したり、リンパ節や肺や骨に転移を招くリスクがある。また、転移性がんは、リンパ節、肺、骨、肝臓などに転移しやすい。
しかも松田は、喫煙歴の長いヘビースモーカーだった。現在なら大阪医科大学が開発した膀胱温存療法(膀胱につながる動脈の血流を遮断し、膀胱内だけに抗がん剤を循環させる治療法)の有用性が確認されている。だが、20年以上前に、がんを放置していたなら、松田の生還は望めなかったのかもしれない。
ところで、有名人やスターの死因については、根も葉もない憶測や独断が相も変わらず世間に横行している。松田の死因を自殺、怨恨による毒殺、秘密結社による陰謀死などとする他愛もない風説俗言は、まったく笑止の沙汰と言うほかはない。
ジーパン刑事、奇想天外の大活劇、ハードボイルド・スターから演技派へ
松田優作。1949(昭和24)年9月21日、山口県下関市生まれ。日本人の父と韓国人の母との非嫡出子だが、 のちに日本国籍を取得。身長183cm、血液型A型。
23歳、刑事ドラマ『太陽にほえろ!』にジーパン刑事でレギュラー出演、大人気に。志垣太郎主演の『狼の紋章』に映画初出演。25歳、映画『竜馬暗殺』に龍馬・原田芳雄と共演。青春映画『あばよダチ公』に初主演。26歳、暴力事件を起こし、執行猶予3年の有罪判決。自粛後の映画復帰は『暴力教室』 。『時うた』で歌手デビュー。
この頃、『完全なる飼育』をものした作家・松田美智子と結婚、6年後に離婚。その後、『探偵物語』の共演で出会った女優・熊谷美由紀 (松田美由紀) と再婚。龍平、翔太、ユウキが生誕。
27歳、刑事ドラマ『大都会 PARTII』に出演。29歳、映画『蘇える金狼』、映画『俺達に墓はない』、推理・ミステリー映画『乱れからくり』 のほか、テレビドラマ『探偵物語』に次々と主演。30歳、ハードボイルド映画『野獣死すべし』で過酷な減量を試み、鬼気迫る奇演が光る。
アクション・スターの地歩を固めるが、演技派俳優への道も模索。32歳、泉鏡花・原作の文学作品『陽炎座』、主人公の少年愛的な場面を描いた『ヨコハマBJブルース』を怪演。物議を醸す。
37歳、やくざ抗争とSFテイストをコラボした異色映画『ア・ホーマンス』を製作し自ら初監督。39歳、『ブラック・レイン』(リドリー・スコット 監督)出演。捨て身のアウトロー・佐藤浩史役を射止める。日米の映画界で大いなる喝采を博すが、満身創痍の遺作となる。
遊郭で生まれた生い立ちや韓国国籍を悩んだ傷心の日々。極度の近視、黒縁のオヤジ眼鏡。ハードボイルド・スターなのに、どこかコミカルな血を感じさせる可笑しみ。1日100本以上のヘビースモーカーが、尊敬する渡哲也が「大都会PARTII」の撮影中に禁煙すると、1日15本まで減らす実直さも見せる。
その一方、六月劇場の研修生の頃、黒澤明監督の自宅前で3日間座り込み、弟子入りを迫ったが、けんもほろろに追い返される。「俺は一生かかっても必ず有名になってみせる。だが有名になっても黒澤監督の映画にだけは決して出んからな」
無謀、無鉄砲、無頼。全身、手が切れそうな、血しぶきが飛びそうな肉体派アウトロー・スターのギラギラと燃え盛る情念がある。膀胱がんの病魔をおして、辛苦を舐めながら、鬼気迫るヤクザを怪演した遺作『ブラックレイン』で魅せた不死身の執念がある。それは、天国と地獄の異界を越境し、全身全霊を燃焼し尽くした男の流儀と正義かもしれない。つまり、病魔に倒れたのではない。松田優作は、映画と心中したのではないか。
「お前たちは、俺には絶対に勝てない。なぜなら、俺は24時間映画のことを考えているからだ。俺は若い人に、自分の中の変化と重ね合わせて映画を見てもらいたいんだ」
(文=佐藤博)
○参考文献:松田優作ウエブサイト『松田優作全集 改訂版』『越境者 松田優作』『ニッポン映画戦後50年』
バックナンバー「あの人はなぜ死に急いだのか?スターたちの死の真相!」
佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。