ブルーライトには誤解が多い
バイオレットライトを浴びて近視の進行を防ぐために、屋外活動を行ったほうがいいことはわかった。しかし、気になるのが「紫外線」と「ブルーライト」。青色に見えるブルーライトは380~500nmの光である。
「ブルーライトについては、多くの人に誤解があるようです」と鳥居医師は指摘する。ブルーライトを検索すると、疲れ目やドライアイ、自律神経の乱れなどを招くと書かれている記事が見つかる。
ブルーライトは悪者扱いされているが、鳥居医師は「朝や日中はむしろブルーライトを浴びたほうがよく、夜のカットが重要なのです」と語る。
「ブルーライトは体内時計を調整する役割を果たしています。太陽が昇っている間にしっかりとブルーライトを浴びておくと、体のリズムが整って、健康が維持できるのです」
「問題は夜間です。スマートフォンやゲーム機などのディスプレイを凝視してブルーライトを夜間に浴びていると、夜にもかかわらず体は昼間だと判断し、体のリズムが乱れ、睡眠障害や肥満といった症状が現れやすくなります」
バイオレットライトの活用で近視進行を抑制
紫外線については、目や皮膚に与えるダメージがあるため注意は必要だ。
「昭和30年の子どもの外遊びの時間は、1日平均3.3時間というデータがあります。私たち人類の歴史を振り返れば、太陽光を浴びて生活してきた年月のほうが長く、ある意味では自然なことなのです」
「近視の進行を抑制するために、成長期の子どもたちは1日2時間を目安に屋外活動を行うのが望ましいですね。成人して近視が落ち着いているようであれば紫外線による影響を考慮し、屋外活動時間を少なくしたり調整していくのが望ましいと思われます」
鳥居医師は、バイオレットライト照明などの開発にも携わっている。
「私自身、中学時代にパソコンにハマり、たった1週間で裸眼視力が1.5から0.5に急落して非常に困った経験があります。さらに成人してからも近視は進行し続けていたのです」
「近視進行を抑制する可能性のあるバイオレットライトの発見後、バイオレットライトを透過する眼鏡やバイオレットライトを出す電気スタンドを使うようになって、眼軸長の伸長が止まってきました」
そして、鳥居医師は、「自分の体験を踏まえ、パソコンなどのVDT作業がほぼ日常化し屋外活動時間がほとんど確保できない現代社会において、近視発症・進行で不便に感じる人を減らし、さらに可能なら強度近視・病的近視・失明という流れをなくしていきたい」と締めくくった。
(取材・文=森真希)
森真希(もり・まき)
医療・教育ジャーナリスト。大学卒業後、出版社に21年間勤務し、月刊誌編集者として医療・健康・教育の分野で多岐にわたって取材を行う。2015年に独立し、同テーマで執筆活動と情報発信を続けている。
鳥居秀成(とりい・ひでまさ)
慶應義塾大学医学部眼科学教室助教。2004年、慶應義塾大学医学部卒業後、日本医学会総会特別シンポジウムで日本の研修医代表として卒後初期臨床研修の問題点について発表。2006年、同大学医学部眼科学教室に入局し、2017年より現職。近視に関する研究に興味を持ち医師を志し、2017年にはバイオレットライトに着目した近視進行抑制についての論文を発表。現在は慶應義塾大学病院眼科の近視外来、南青山アイクリニックの近視予防外来などを担当。