火葬された遺骨でDNA鑑定はできるのか?
さて、ダリの遺骨のDNA鑑定に戻ろう――。
問題は、火葬された遺骨でDNA鑑定はできるのか? 土葬ならできるのか? という点だ。
遺骨のDNA鑑定は、骨の内部に残っている骨髄の造血細胞の中にあるDNAを抽出して鑑定する。遺体を火葬すると、造血細胞は500℃以上で完全燃焼し、DNAも千数百℃で破壊される。日本の火葬の炉内温度はおよそ600℃~800℃、燃焼炎温度はおよそ2000℃なので、火葬された遺骨のDNA鑑定はできない。一方、遺体を土葬すると、骨が内部の骨髄の造血細胞を保護するため、骨髄やDNAが良好な条件で保存されやすく、DNA鑑定は可能だ。
カトリックの国スペインは土葬がほとんどで、最近では火葬する人もいるが少なく、全体の10%ほどとされている。したがって、ダリの遺骨は土葬されているた確率が高く、DNA鑑定できるので、父娘鑑定の真偽が判明するのは時間の問題だろう。
しかし、何十年も静かに眠っていた我が遺骨を掘り返され、骨の一部とはいえ剥ぎ取られた挙句に、シュールなDNAの鎖を晒し首みたく暴かれる。生きていたなら、大きい目を見開きながら、こう嘲笑するかもしれない。
「ダリの作品(本性)は誰にもわからない。ダリにもわからない」と……。
(文=佐藤博)
佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。