糞のDNAから魚種がわかる(shutterstock.com)
地球上には、さまざまな生態系に支えられた、多種多様な生物種が共生している。これまでに発見された生物種はおよそ125万種、生息が推定される未知の生物種はおよそ870万種から1億種にもなる。この驚くべき生物多様性(biological diversity)によって、生態系の共生システムが網の目のように形成され、生物種の適者保存と恒常的な進化につながっている。
魚類の生物多様性も実にダイナミックだ。農林水産省などのデータによれば、57目481科4258属ある魚類は、世界におよそ3万3000種以上、日本におよそ4400種以上が生息する。約5億5000万年前の古生代カンブリア紀前期に出現して以来、海洋、サンゴ礁、河川、湖沼、湿原などのあらゆる水圏に適応しながら、独自の進化を遂げてきた。
このようなロバスト(頑強)な魚類の生態研究は、どのように進められているのだろう? 海洋、湖沼、河川に生息している魚類の生態を知るためには、網で捕獲したり、1尾ずつ手に取って調べたり、潜水して泳ぐ姿を観察したりするほかに有効な調査手法はない。
こうした調査の大変さと生物の多様性を見事にバラエティ番組として成立させたのが、テレビ東京系列で1月15日にオンエアされた『日曜ビッグバラエティ「緊急SOS!危険生物から日本を守れ!全国一斉大調査」』だった。ロンドンブーツ田村淳さんとココリコの田中直樹さん、危険生物に悩まされる各地の住民からのSOSで出動、外来種の大量発生に悩む池の水を全部抜き、徹底的な調査をしたもの。一部では画期的な番組として評価されている。興味のある方はYouTubeに上がっているようだ。(https://www.youtube.com/watch?v=wWqeICqpxeM)
しかし、データ収集のための継続的で地道な調査は労力的・時間的にも、経済的・技術的にも、ロスと負担がかなり大きい。しかも、捕獲できる数量や種類に限界やバイアス(偏り)が頻発する。そこで近年、日本の研究者らが連携し、共同開発したのが環境DNA分析法だ。
水中に漂う魚類の糞や体液のDNAを分析すれば魚種が分かる
千葉県立中央博物館生態・環境研究部の宮正樹部長をリーダーとする東京大学の生物環境研究チームは、水に漂う魚類の糞や体表の粘液に含まれるDNAを解析し、特定の172塩基配列が魚種によって異なる事実を発見した。この魚種を特定する解析法が「環境DNA分析法」だ。およそ7000種の魚種を判別できるという。
水に漂う魚類の糞や体表の粘液に含まれるDNAは極めて微量だ。同研究チームは、沖縄県本部町の「沖縄美(ちゅ)ら海水族館」で、複数の水槽から採取した水計約10リットルをPCR法(ポリメラーゼ連鎖反応法)によって解析。水槽内に生息する189種のうち、およそ90%以上の魚種の特定に成功した。
PCR法は、微量のDNAさえあれば、検出したい特定の領域のDNA断片を短時間で100万倍以上に増幅できる。このように環境DNA分析法なら、わずかバケツ1杯の水量を調べるだけで、直径約150メートルの海域の魚種を短時間で精確に判別が可能だ。
さらに同研究チームは、海流が緩やかな京都府の舞鶴湾でも調査を続けた。表層と水深15メートルの海水94リットルを環境DNA分析法によって解析したところ、湾内11キロメートル四方の海域におよそ146種の魚類の生息が確認できた。
潜水調査に14年を費やしても特定できた魚種はわずか80種だったが、現在は、マアジ、カタクチイワシ、クロダイ、サワラ、ブリ、コノシロ、アユなどを対象に調査が進んでいるという。