大学・短大の進学率は、一般世帯53.9%、生活保護世帯19.2%と大きな格差がある!
病気、高齢、失業などによって生活に困った時に使える最後のセーフティネット、それが生活保護だ。生活保護の要件である稼働能力の活用とは、つまりは、働ける状況(年齢、健康)の人は働きなさい、大学に行くヒマがあれば働きなさいという単なる社会制度的な要請にすぎない。
世帯分離は、同居していながら、大学に進学する子どもだけを生活保護から外すことだ。世帯分離された子どもは、生活保護の対象でなくなり、稼働能力の活用を求められなくなるので、大学に進学できるようになる。
たとえば、母と娘の2人世帯で生活保護を利用した場合、2人分の生活保護費が支給されていたが、子どもが大学進学すると世帯分離になるため、母の単身世帯だけが生活保護の対象になる。
政府の「子どもの貧困対策大綱」によれば、大学進学率を貧困対策の指標とすると明記している。先述したが、一般世帯の進学率は、大学・短大53.9%、専修学校17%、全世帯70.9%。一方、生活保護世帯の進学率は、大学・短大19.2%、専修学校13.7%、全世帯32.9%と大きな格差がある。
大西連氏(認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事長)は、「これでは『貧困の連鎖』の解消にはなりません。そして、一般家庭の7割の子どもが大学や専修学校に進学している現状を考えると、高校卒業後に進学する、という選択肢も、この2017年の日本では『贅沢』なものでは決してないと思います」と「Yahoo!個人「2017年は生活保護家庭の子どもが大学進学できる社会にしよう!」の記事で指摘している。
また、駒崎氏は、「生活保護の家庭の子どもが大学に行くのは、『贅沢な話』でしょうか?あるいは『生活保護をもらっていない他の家庭もいるんだから、我慢すべき』なんでしょうか?」と同じく「Yahoo!個人「『生活保護家庭の子は大学行っちゃダメ問題』が、国会で安倍総理にぶつけられました」の記事で記している。
実は、生活保護世帯の子どもは、1969年までは世帯分離しなければ、高校進学が認められないという酷なハードルがあった。つまり、1970年から世帯分離せずに高校進学が初めて認められ、2005年からは生活保護制度の枠内で高校の授業料がようやく支給されるようになった。
一般世帯の高校進学率が高まり、高校進学が将来の自立につながりやすいという社会のコンセンサスの結果にしても、生活保護世帯の子どもが負担なく高校進学できるようになってまだ12年しか経っていない。生活保護制度の致命的な時代錯誤を感じざるを得ない。
給付型奨学金もスタートか? 世帯分離から世帯内就学へ!
現在、政府は生活保護世帯を含む貧困家庭の子どもの進学へのハードルを下げるために、給付型奨学金を創設する施策に取り組み始めている。このような追風を逃す手はない。
大西氏は、生活保護世帯の子どもの大学進学に関しては、世帯分離でなく「世帯内就学」へ制度運用を変えられないか、と思いますと話している(同前)。
世帯内就学を認めれば、母と娘の2人世帯なら、世帯分離せずに2人世帯のままで、支給される生活保護費は変わらず、子どもは勉学に励める。
一方、奨学金やアルバイト代で家計を助ける必要がなくなるため、生活保護費を就学費用に充てるように、奨学金やアルバイト代の認定除外や自立更生計画の策定など、運用上のルールは欠かせない。
だが、1970年から高校進学が世帯内で行えるようになったように、世帯分離から世帯内就学への変更は、法律の改正は必要ない。厚労省の発出する通知だけで、生活保護世帯の子どもの大学進学が実現できるのだ。もちろん、大学・短大だけでなく、専修学校も対象にしなければならない。
大西氏は、「一般家庭の専修学校等もふくめた進学率は先述した通り70.9%なので、せめて生活保護家庭の子どもの進学率が現状の32.9%から70%台に持っていけるように、政策目標とするべきだと思います」と話している(前同)。
生活保護世帯の子どもの大学進学は、子どもの貧困対策の第一歩だ。低所得の家庭への支援にもつながるだろう。
生まれた家庭の経済状況が子どもの大学進学率を決めている。それが格差や貧困の連鎖を招いている。しかし、このような矛盾に満ちた時代錯誤の生活保護制度でも、厚労省の通知1本で一変する可能性があるのだ。今後の動向に注目したい。
(文=編集部)