マグロの「水銀濃度」は上がったのか下がったのか?( zaferkizilkaya / Shutterstock.com)
ここ数年、中国の大気汚染は日本にも深刻な影響をもたらしている。1月28日、春節(旧正月)を迎えた中国では、北京市内で花火や爆竹が使われたため、さらに深刻な大気汚染に見舞われた。
中国メディアによると、北京市内では28日未明、微小粒子状物質「PM2.5」の濃度が一時、中国の環境基準の18倍を超えたという。PM2.5は呼吸器、循環器に作用し、脳卒中、心筋梗塞などのリスクも高める。中国では、大気汚染が原因で年間100万人の死亡者が出ているとまでいわれている。
だが、この汚染は大気だけにとどまらない。中国から偏西風で飛んできたPM2.5とともに水銀が日本に押し寄せ、環境中でさらに毒性の強いメチル水銀に変化しているのだ。
メチル水銀は、かつて熊本県・水俣湾の住民に多数の死者を出し、いまも後遺症を残す「水俣病」の原因物質だ。
日本生協連は、メチル水銀濃度の高い水産物を主菜とする料理の目安について、<通常で週2回以内(週計100~200g以下)。妊婦や幼児、近く妊娠を予定されている人は週1回以内(同50~100g以下)に抑えよう>と消費者に奨めている。
具体的には、マグロ類(カジキを含む)やサメ類、クジラ類(イルカを含む)や深海魚類などが対象だ。
海に囲まれた島国育ちの日本人の場合、その水銀摂取の8割以上が魚介類由来のものといわれる。なかでも人気のマグロは、寿司でも良し、刺身でも良しの人気者。なんの躊躇もなく、「遠慮すんな」「たくさん栄養摂れ」と妊婦に奨める姿を見かけても不思議はない。
だが、調査用に捕獲したマグロの組織検体を検査したら、含まれていた水銀濃度が<海水と比べて1億倍>だった、という数値を聞かされて驚愕しない人はいないだろう。
そんなマグロの水銀濃度と大気汚染をめぐる、興味深い最新研究が報告された。
火力発電とマグロの深い関係
最近の北大西洋海域では、北米の火力発電などに用いられる石炭利用料(=水銀の産業排出量)の減少に伴ない、マグロの水銀濃度も低下しているようだ――。
そんな研究結果が、昨年11月10日の『Environmental Science & Technology』(オンライン版)に掲載された。米ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校海洋・大気化学学部教授であるNicholas Fisher氏らの研究による成果だ。
解析に際しFisher氏らは、2004~2012年に捕獲されたタイセイヨウマグロ約1300匹の組織検体(年齢は9~14歳)を対象に、その水銀濃度を比較検証した。いずれのマグロも、カナダ南東部に位置するセントローレンス湾やメイン湾の海域で操業する商用船が捕獲したものだ。
なぜ、マグロが研究対象に選ばれるのか? それは「食物連鎖の頂点(上位)」に立つ大型魚であり、水銀を含んだ小魚類を食べることによって蓄積される水銀量がハンパないからである。
しかもツナ缶の消費量が(それこそ)ハンパない米国人の場合、魚介類から摂取する水銀のおよそ40%がマグロからという原因に結びついているため、今回の知見が耳目を集めている。